【コラム】ニコラ・ヨキッチ、’22レギュラーシーズンMVPを振り返って。

目次

はじめに

’21シーズンと引き続き2年連続のMVPを獲得したニコラ・ヨキッチ。

’22の活躍はどういったものだったのか、’21と’22では何が変化したのかを記していこうと思います。

主要スタッツ

まずは主要5部門のスタッツ。

27.1PPG/13.8RPG/7.9APG/1.5SPG/0.9BPG

この5部門や総出場時間2476分など多くの部門でチームTOPです。
2000得点/1000リバウンド/500アシストを達成した史上初の選手でもあります。

こんなに可愛いかったのに立派になっちゃって。

代理人によって公開された幼き日のニコラ・ヨキッチ。ナゲッツ加入は運命?タンパリング?©Misko raznatovic

効率の良さ

ヨキッチのルーキー時代からの特徴に効率の良さがあります。

ヨキッチのTS%(ざっくり言うと3P、FTを含めたシュート効率)は昨季66.1%でリーグ4位。キャリア全体では62.19%で史上8位にもなります(あくまで現時点で、です)

また、ヨキッチの効率の良さを一層際立たせているのは効率の良さと仕事量の多さを両立させていることです。

昨季ヨキッチのUSG%(下記※参照)は31.9%でリーグ10位。AST%は42.6%で4位、TRB%も23.0%で3位。

これだけシュートを打ち、アシストを出し、リバウンドを掴みながらリーグ4位のTS%を記録することは他に類を見ません。

USG30%&TS65%以上を同時達成したのはリーグ史上KDとステフとヨキッチのみ

※USG%:ざっくり言うと、その選手がコートにいる時にFG・FTを打つ、TOVする割合。いわゆるエース的な存在はシュートを沢山打ちますからUSG%が高くなります。USG%の高い選手は同時に厳しいディフェンスにさらされる事も多くなるので実際のシュートスキルの高さに対して、前述のTS%は低くなりやすい傾向があります(例.ブッカー、テイタム、ドンチッチ等)。逆に限られた少ない状況・リムに近い場所でしかシュートを打たない選手はTS%は高くなる傾向にあります(例.ゴベア、ジャレット・アレン、ミッチェル・ロビンソン等)。

影響指標

NBA選手の実力や仕事ぶりを図るスタッツ・指標は近年加速度的に増えてきていて、その中に俗に“impact metrics”と呼ばれる類の指標があります。“影響指標”と訳されるように、大まかに言えば“チームへの影響力を数値化”したものです。

お察しの通りヨキッチはon/offスタッツ始め影響力を示す指標で軒並みTOPの数字を記録しましたが、ディテールを伴わないと誤解を招きやすいですから、いつかより詳細な別途記事を作ろうと思います。……とはいえ折角なので少しだけ。

RAPTOR WAR/Real Plus-Minus/LEBRON/Estimated Plus-Minus全て1位

’22ヨキッチの受難

なぜヨキッチは二人の相棒を失ってもこれだけの活躍が出来たのか?

“影響指標”というのはon/offスタッツ関連が大きく加味されるので、言い方が悪いですがベンチが悪ければ悪いほど数字が膨らみやすくなります。
ですがヨキッチはそれを差し引いても驚異的な数値です。しかもマレーとMPJ離脱でスターターの内二人を欠いた状況。

なぜヨキッチは効率含む個人スタッツを落とさず、チームも勝率微減にとどまったのか?

先に結論と言いますか強引にまとめるとそれはヨキッチの影響力が双方向だからです。

ヨキッチは前述の通り非常に大きな影響力を持っていますが、ヨキッチ自身もチームメイトと相手から影響を受けて柔軟に変化をする選手だということです。

下の画像は’21ヨキッチと’22ヨキッチのトゥルーシューティングチャート(FTをもらった位置も含めたショットチャート)です。色が真赤に近ければリーグ平均よりも効率がよく、六角形が大きいほど得点が多いことを表しています。画像はデータサイト“Positive Residual”から。

左の画像’21ヨキッチは4月までマレーもMPJもいて比較的広範囲で自由にシュートが打てました。

’21は211cm130kgのショットチャートには見えない万遍なさ
’22は手首の怪我もあってかミドル少なめ3P%もやや不調

それに対して’22は3Pの精度が悪く、フリースローサークル近辺では得点数も効率も低下しています。

理由は単純です。マレーがいない事でショートロールでボールを持てる事が減り、MPJもいない事で1対1の状況やオープンになる事がさらに減ったからです。

第4Qともなると極端なディナイやダブルチームにさらされる事が多くなり、負担の多さによる疲労もあってヨキッチのOn Court NET RTGは全体の8.4から第4Qのみでは-0.5まで下がります。

このように’22ヨキッチは苦労はしていたし相手のディフェンスは成功してたとも言えます。

少し話題になった昨季ヨキッチを象徴するかのような写真。トリプルチーム+ヘルプ準備万端の二人。

’22ヨキッチの対応力

’22ヨキッチが恐ろしいのはここからです。

画像右の’22ヨキッチは左’21と比べるとペイント内・ゴール下でより多く打ち、ベースライン寄りでも効率を落とさずにいる事がわかります。

万遍なく打ち、右コーナ3を除けば全て平均以上の効率
シュートの内70%がペイント内で高効率。ローポストは超高効率

不思議じゃないですか?厳しくマークされて3Pやミドルで苦労してるはずが、より狭いベースライン沿いやペイント内で大暴れしているんですから。

答えの一つ目は単純にヨキッチのフックショットやフローターの精度が尋常じゃない事。
3-10feetでのFG%は60.6%でリーグ3位です

答えの二つ目はヨキッチがエリートなオフボールプレイヤーであるという事。
2ndチャンスとカッティングで平均3.8点と3.1点を記録

ヨキッチは類稀なパススキルを持っていて、本来はダブルチームが裏目に出る事も多い選手です。ですが優れたアウトサイドシューターでもあるマレーとMPJを失ったことで相手はヨキッチへより厳しいディフェンスが可能になりました。

ただヨキッチはジャンプ力はないもののスタンディングリーチは高く、BBIQや緩急を用いて隙をついたり相手のタイミングをずらす事で混雑したペイント内でシュートが打てます。

そしてヨキッチの2ndチャンスポイントはティップやオフェンスリバウンドをとってそのまま自分で決めるものが多いです。つまり直前までボールを持っていない=厳しいディフェンスにさらされていない時のプレイ。カッティングも同じです。
つまり

’21以上に厳しいディフェンスにさらされようと、その上を行くBBIQとソフトタッチを持ち、味方のシュートミスをフォローし、相手オフボールディフェンスの隙をつくことで’21と変わらぬ平均得点を維持しながら効率を上げました。

’22ヨキッチの勝負強さ

前述の[’22ヨキッチの受難]の項で「ヨキッチのOn Court NET Rtgは全体の8.4から第4Qのみでは-0.5まで下がります。」と述べました。

ではヨキッチは終盤肝心な時に頼りにならないのでしょうか?

答えはNOです。

ヨキッチのクラッチスタッツ(試合終了まで残り5分5点差以内でのスタッツ)をいくつか見てみましょう。

4.0PPG/NETRTG7.1/USG%42.3%/TS%59.8%/22勝14敗

4.0PPGはリーグ4位。4Q全体では-0.5だったNETRTGは接戦では7.1まで上昇。通常パス意識が高いヨキッチもUSG%は42.3%まで上昇し、クラッチスタッツでUSG%が30%を超える選手の中でTS%59.8%はリーグ7位です。

他にも3本のゲームセービングブロックと2本のゲームウィニングアシストを持つなど、クラッチスタッツではわかりにくい部分でも“ヨキッチの勝負強さ”は常軌を逸していました。

コート近くから見ると反応の良さがよくわかります

残り5秒で7フッター含むダブルチームの上を通すクロスコートパス。異次元の冷静さと正確さ

さらに3月7日に行われた対ペリカンズでの第4QとOTだけでFG10/11の30得点を叩き出した試合は、対戦相手だったラリー・ナンスJrが「レブロンのファイナル51得点試合よりも印象的だった」と述べるほどでした 。(「レブロンはやって当然」という思いもナンスJrにはあるのでしょう)

’22ヨキッチのアシスト

ここまでは’22ヨキッチ本人のスコアリングを中心に焦点を当ててきました。

本項では’22ヨキッチのパス・アシストについて見てみましょう。

しつこいようですが’22ナゲッツはマレー、MPJ、PJ・ドージャー、ブラッコ・チャンチャーの長期離脱他多くの怪我に悩まされました。
レギュラーシーズンが進みMVPレースが過熱していくにつれ、ヨキッチの活躍を強調したいがために「ヨキッチ以外のナゲッツメンバーはひどすぎる」といったような声が目立つ様になっていきました。

そこで思い出して頂きたいのが先に述べた結論ヨキッチの影響力は双方向という言葉。

バスケはチームスポーツですから影響力が双方向なのは当たり前です。ですがヨキッチについては特筆するだけの特異性があります。

’22ナゲッツはマレーとMPJがいない分、他の誰かが得点をとる役をやらなければなりませんでした。

結論を言えばプレイオフ含めマレーとMPJの穴を補える選手はいませんでした。開幕前から長期欠場が予想されていたマレーは兎も角、MPJの離脱は開幕後の不測の事態です。それをそんな簡単に補えれば誰も苦労しません。

ナゲッツで2番目に高いPPGを記録したのはウィル・バートンでチーム2番目のスコアラーによる15.0PPGは全チーム中最も低い数字でした。

物足りなさがあった事は否めませんが、これに関してはバートンが責められるべきではありません。他の選手がそうであるようにバートンにとっても本来やるはずではなかった大役で、バートンに楽に点をとらせられる練度の高いデザインプレイもないようなチーム状況でしたから。

では結局ナゲッツはどうしたのか?ヨキッチのチームメイトたちはどうしたのか?

答えは至って単純、各々が出来る事・得意な事をしました

アーロン・ゴードンはカッターとして優秀なのは勿論、スクリーナーとして選手をオープンにする、自分が不必要であればディフェンスリバウンドをヨキッチに任せ一早く走って相手セーフティとのミスマッチを作る。ヨキッチはオープンやミスマッチを滅多に見逃しません。

ジェフ・グリーンは高齢なのもありスターターとしては少ない出場時間でしたが、クローズアウトシチュエーションや合わせが得意で、そういう選手がいればヨキッチのアシストは増えてペイント内で仕事がしやすくなります。

二人とも3P%が34%以下と不調だったにもかかわらずTS%は60%超えのキャリアハイでした。

モンテ・モリスは60%には届きませんでしたがTS%58.3%で12.6PPGと共にキャリアハイです。3P%は39.5%でチームTOP。ヨキッチの2メンゲームの相棒として多くのミドルを決めGSW戦ではヨキッチからパスを受けブザービーターも決めました。

バートンはBBIQが疑問視されたりセルフィッシュとされる事も多かったですが、ヨキッチを頼りにせずセルフクリエイトの出来る2番目のスコアラーとして、“ヨキッチの負担軽減”という面では昨季一番貢献した選手かもしれません。

怪我の多かった’22ナゲッツですが残されたスターター5人は全て70試合以上出場。OFFRTGは’21シーズンと変わらぬリーグ6位。アシスト数は5位から3位と上昇。

ヨキッチ本人はそうしたチームメイトたちの奮闘もあったからこそAPGは微減にとどまり、トータルパス数を増やす事が出来ました。

つまり

ヨキッチは相手が厳しいディフェンスをすればそのディフェンスに合わせて主戦場を変えてシュートを打ち、味方が変わればそのプレイスタイルに合わせてパスが出せる。自分の得意分野を押し付けるだけではない、まさに“双方向の影響力”をもった選手というわけです。

最後に

記事タイトルに“ニコラ・ヨキッチ、’22レギュラーシーズンMVPを振り返って。”とありますが、実際に書いてみて思ったのは

「時間もスペースも全く足りなぁい!」

って事です。

本当は’22ヨキッチについてもっと書きたい事あるんです。

’22ヨキッチのディフェンスはどう改善し、どの部分が弱点のままで、その弱点をどう補っていたのか?

とか

’22ヨキッチはアーロン・ゴードンとどのようにコミュニケーションをとり、良いケミストリーを構築していったか

とか

’22ヨキッチとモンテ・モリスの2メンゲームはマレーのものとはどう違ったのか?

とか沢山です。

中途半端ではありますが、これ以上は読みづらくもなりますし論旨もぼやけます。物足りない部分は“影響指標について”と同じく、いつか別途記事にしたいです。

最後に一枚だけ

「夏休みの宿題を見てもらってる小学生」にしか見えない総額約360億円の契約に署名するヨキッチ。©Misko raznatovic

お読み下さり、ありがとうございました。

※特に記載のない場合、記事中のスタッツはNBA.comもしくはBBRから引用しています。

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