2002年以降NBAファイナルの視聴者数と2013-2024サラリーキャップの推移。リーグとメディアによる選手個人にフォーカスしたマーケティングへの私見。/レイカーズ、ウォリアーズ、セルティックス、マイアミ・ヒート、デンバー・ナゲッツ、シクサーズ、ESPN、2023

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2002年以降NBAファイナルの視聴者数と2013-2024サラリーキャップの推移。リーグとメディアによる選手個人にフォーカスしたマーケティングへの私見。/レイカーズ、ウォリアーズ、セルティックス、マイアミ・ヒート、デンバー・ナゲッツ、シクサーズ、ESPN、2023

NBAは市場性の高い選手、チームではなく選手個人を売り込む事で世界的な人気を得ました。(他にも多くの要因が重なっての事ですが、非常に長くなるのでここでは省きます)

前コミッショナー:デビッド・スターンの功績として知られる、このマーケティングはNBAに限らず広く活用されている手法です。

複雑な構成要素を持つチーム/団体にフォーカスするよりも個人に焦点を当てる方が、情報を発信する側・受信する側双方にとって、より手軽で都合が良く、魅力的なコンテンツに溢れた現代において「手軽さ」というのは極めて重要なファクターと言えます。

筆者は、こんな個人ブログの執筆に時間を費やす人間ですので、NBAについてより細かく、より詳細な情報を求める事が多いですが、それでも時間は有限です。
選手個人のプレイ・魅力を短くまとめたハイライト集や、選手個人の歴史を適度にまとめた記事・動画のお世話になる事はあります。

また、選手個人を売り込む手法は「アメリカ・カナダに地元を持たない外国人≒贔屓のチームを持ちづらい人間」に対して理にかなった手法とも言えます。

これまでNBAがとってきた手法の有効性は、これ以上ここで御託を並べるよりもNBAの現状を見れば一目瞭然です。

インスタグラムで17億回の再生回数。同プラットフォーム上4/29~5/15の期間で最多。
各試合、過去十数年で最多の視聴者数。
リーグの収益から算出されるサラリーキャップの推移。
アメリカ国内のNBAファイナル平均視聴者数。パンデミックによるスケジュールのズレや社会問題の関与により2020年に大きく落ち込むも、以降上昇傾向に。引用元:statista.com

これら成功の原因を「選手個人を売り込む手法」一つに集約させる事は出来ませんが、その有効性を否定する事も決して出来ないはずです。

有り体に言ってしまえばマジック・ジョンソン、ラリー・バード、マイケル・ジョーダン、コービー・ブライアント、レブロン・ジェームズ、ステフィン・カリーら市場性の高いスーパースター個人へ頻繁に(必ずしもポジティブではない)ライトを当て続けた事は多くの人間へ経済的にも精神的にも莫大な利益を与えました。

好むと好まざるとにかかわらず、80年代以降NBAがとってきた「選手個人を売り込む手法」、それに追従してきたESPN他マスメディアの手腕・功績は間違いなく称賛に値するものでしょう。

ありがとう、NBAとESPN。素晴らしき哉、人生!

・・・・・

・・・・・・・・・で話が終わりじゃあないんです。蛇足とは知りつつも、「選手個人を売り込む手法」の欠点と感想を私なりに。

まず、本記事を書くキッカケとなった出来事から。

数日前の2023年5月下旬、ESPNでアナリストを務めるジェイ・ウィリアムスが番組内で、ニコラ・ヨキッチの今季2023ポストシーズンの活躍を指して「ポストシーズン史上最高のワンマンオフェンス」と呼びました。リンク

私はその放送自体は見ていませんでしたが(後で見返しはしました)、とあるコミュニティ内でなされた、それに付随した議論に非常に興味がそそられました。

ワンマンオフェンスって具体的にどんなの?

といった議論です。

私の意見では、ヨキッチのプレイスタイルを指してワンマンオフェンスとは呼びません。

私はヨキッチのオフェンスへの関与率・影響力は数字とアイテストを基にステフィン・カリーと並んで現NBAでNo.1と考えていますが、その影響力は必ずしもヨキッチ主導によるものではありません。

スクリーナー・ショートローラー・オフェンシブリバウンダー等オフボールでも大きな影響を及ぼせる事がヨキッチのオフェンスを高く評価する理由であり、ワンマンオフェンスに違和感を覚える理由です。

私はワンマンオフェンスと聞くとOKC時代ラッセル・ウェストブルック、ロケッツ時代ジェームズ・ハーデン、ルカ・ドンチッチらのようなUSG%・AST%・Iso%が極めて高い選手、そういった選手を中心に据えたオフェンスをイメージします。

ただ、ヨキッチもステフもOKCラスもHOUハーデンもルカも「オフェンスの中心」という意味では共通していますし、もっと細かい事を言い出したらカテゴライズそのものを否定する事に繋がってしまいます。皆違う選手である以上違う部分は必ずあり、その違いを許容できなければ「ベストPG議論」等あらゆるNBAトークもしづらくなります。

なので私個人としては違和感を禁じ得まえんが、「史上最高のワンマンオフェンス」という形容を間違っているとまでは思いませんし、「手軽に興味・議論・視聴者を引き寄せるわかりやすさ」に秀でていると思います。

ジェイ・ウィリアムスは根拠としてヨキッチのPPG・RPG・APG・FG%等を挙げていましたが、これも「わかりやすさ」を優先してのことでしょう。間違いなく、もっとディテールの伴った見解を示す事も出来たはずですが、放送時間は限られていて、視聴者に「話がわかりづらい」と思われるのはマイナスです。

下手すると、こうなっちゃいます↓。

一世を風靡した?名作CM。リンク

これはNBAの魅力を伝える上でのジレンマだと思います。

NBA全体・チーム全体・選手個人でも、その魅力を深く正確に伝えようと思うと、どうしても話は長く専門的な話になりがちです。
しかし現代社会はお金と時間のかからない娯楽・コンテンツに溢れています。少しでも「難しい」「つまらない」「長い」と思ったのなら、すぐ隣により「わかりやすく」「面白い」「手軽」なコンテンツが溢れています。最近はインターネット記事の見出しの横に“○ min read”「この記事は読むの〇分かかります」なんて添えられているのもよく目にするくらいです。

CBS Sportsの記事見出し。

飽きさせず興味を引き出し続ける事が重要で、それには専門的な話よりも既存の人気選手の「わかりやすい」話や、むしろ荒唐無稽なホットテイク(物議を醸す意見)の方が有効な事が多いんです(※)。

※:個人的に断言したくはありませんが、ベン・テイラーやティム・レグラーのようなある程度専門的な話をするアナリストよりもケンドリック・パーキンスやスキップ・ベイレスらホットテイクアーティストの方が非常に多くの視聴数と話題を集めている事から、そう言わざるを得ません。

両方大事な存在だと思いますけどね。一部ラインを越えた発言は抜きに。

話を深く掘り下げようと思うとNBAへの興味が薄い層からはソッポを向かれるリスクが高まり、「わかりやすさ」「ホットテイク」を優先すると違和感や不快感を与えるリスクが高まる。

現在のESPNは「ホットテイク」を量産している姿勢が目立ちますから、後者を優先していると言えます。(あくまでTV番組上での話です。そうではないESPNアナリスト・ライターも沢山いますし、ESPNサイトには専門的で興味深い記事やデータが多くあります)。

自身のポッドキャストでは現役選手・元選手らと共にリスペクト溢れる放送をしているJJ・レディックでさえ、ESPNの番組に出演した時は偶にとんでもなく失礼な事を言い出します(※)。

※:ESPNのTV番組上、ベストPG議論の中でクリス・ポールを推すために「ボブ・クージーは消防士や配管工にガードされていた」と発言。リンク

今よりもずっとサラリーが低く、多くの選手が兼業せざるを得なかった時代に活躍し、現在のNBAの隆盛・高サラリーに多大な貢献をしたレジェンドや当時選手たちへのディスリスペクトとして、私含む多くの人間から話題を集めると共に大きな不快感も与えました。

言われたボブ・クージ―は「相手にすべきでないのはわかっている。しかし、ビル・ラッセル、ウィルト・チェンバレン、我々には地球上で最高の消防士と配管工がいた」とコメント。
現役時代の対戦相手だったジェリー・ウェストも冷静に激怒。リンク
番組構成上の意図による発言で、レディックの本意とは全く思いませんが、それでも言ってほしくなかった発言でした。

100%私の憶測ですが、「ホットテイクを提供する憎まれ役はESPNアナリストの中で持ち回り・交代してやっているのかな」と思います。レディックに限らず、カーク・ゴールズベリーのような実績あるアナリストですら「以前と同一人物とは思えない」言説を唱えている光景を稀に目にします。

自説を推すために他を貶す。

似たようなことが「選手個人を売り込む手法」にも起こります。

一人のスーパースターを際立たせるために他のチームメイトを意識的、もしくは無意識的に過小評価・軽視してしまうんです。

前述のヨキッチへのワンマンオフェンス評価に、私が一瞬嫌悪感を抱いたのもジャマール・マレー、アーロン・ゴードン、MPJ、KCP、ブルース・ブラウンらへのディスリスペクトを感じてしまったからだと思います。(ジェイ・ウィリアムスの真意とは別に)

バスケットボールはチームスポーツで、5vs5のスポーツです。常に5人10人でプレイする以上、選手一人を切り取って評価するのには限界があります。

勿論そうはいっても私だって選手個人を評価しますし、そういった事を楽しみます。

ただ、悲しい事に、選手一人の実力・功績を際立たせるために「大した事のないチームメイトを優勝orプレイオフへと連れて行った」「悪いのは他のチームメイトのせい」といった論調を頻繁に目にします。(特にMVP議論で)

それが事実であるかどうかを問わず、大抵は私にとって残念なものです。

特定のチームのメディア・ファンが、そのチームの選手一人を褒めるために、そのチームの他の選手を貶す事態はあまり楽しい事とは思えません。(全てではありませんが、大抵ディテールの伴わない感情的な論調なのも一因です)

ヨキッチの功績を際立たせるために「オースティン・リバースやファクンド・カンパッソら実力不足のチームメイトでプレイオフ進出を果たした」みたいな語り方をするのは、ヨキッチを称賛するのには役立つのかもしれませんが、他の選手の功績・魅力・チームとしての完成度を伝える事を放棄するようなものです。
正直言いまして、プレイオフチームのローテーションプレイヤーとしては二人とも実力不足だったと私も思いますけど、それは私の見解・憶測であって、少なくとも二人には憶測でない目に見えた貢献・好プレイがありました。

2021年プレイオフ一回戦対ブレイザーズシリーズ第3戦。オースティン・リバースはチームで唯一人、第4Q12分間フル出場し4Qだけで3P4/5の16得点。120-115の接戦の勝利に非っ常に多大な貢献をしました。
怪我人続出のナゲッツバックコートで多くの出場をして、その隙間を埋めてくれました。
1試合のモノとは信じられないほど好プレイ/好アシストのつまったハイライトへのリンク。

ヨキッチに限らず、未来の殿堂入り選手に囲まれたステフにすら、こういった論調は存在します。恐らく全ての中心選手・スーパースターに存在します。チームメイトに誰がいようと存在します。

既存の人気選手の注目度とホットテイクを頼りにする余り、未知の魅力の発掘を怠る。

各メディアに普段お世話になっておきながら何とも不遜な物言いだとは思いますが、まとめると

話題や称賛を個人に集中させる手法が、ロールプレイヤーやチーム全体のシナジーの魅力を受け取る機会を損なっていて、それが自然と彼らへの過小評価や軽視に繋がり、間接的に過剰な「ホットテイク」の助長にも繋がっている。

以上が私にとっての「選手個人を売り込む手法」の欠点です。

冒頭で述べたように利点や実績の方が非常に大きいですし、リーグやマスメディアが供給せずともマイナーな情報はインターネットの海のそこかしこに溢れてますから、「変わって欲しい」とは全く思いません。

・・・

・・・・・とも言い切れない。特定の選手・チームの扱いの少なさを寂しく思うこともありますし、複雑です。

そこらへんのバランスは難しいんでしょうね、きっと。

とってつけたようですけど、結局は

ありがとう、NBAとESPN。素晴らしき哉、人生!です。

It’s a Wonderful Lifeを「素晴らしき哉、人生!」という邦題にした事含め好きな映画です。

今回はこの辺で。ではまた。

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