NBA史上稀に見る高効率スコアラーの相違点と共通点。rTS%ランキングとTS%の更なる奥深さと。/ステフィン・カリー、ケビン・デュラント、ニコラ・ヨキッチ、ゴベア、デローザン、八村塁etc.
先日、TS%について少し語りました↓。
上記記事の要点をざっくり言うと、
TS%はとても便利ですけど、本来は長いスパンでのシュート効率を計るために考案された指標・計算式なので、短いスパンで用いる時、または参照する時、その点留意しておくと良いです。
計算式:
Points/ [2*(Field Goals Attempted+0.44*Free Throws Attempted)]
となります。
本記事はTS%の他の留意点と面白い部分について。
まず他の留意点について。
FG%や3P%と共通の留意点ですが、プレイタイプやショットセレクションは考慮されてないので、所謂「シュートの上手さ」を計るのにはあまり適してないです。
「シュート効率」を計るためのスタッツが「シュートの上手さ」を計るのに適していないとは、些か矛盾があるように聞こえるかもしれませんが、前回記事でも紹介したTS%ランキングを見ればわかる通り、主にリム近辺でしかシュートを打たない選手やオープン3Pを主にする選手はTS%が高くなる傾向にあります。
勿論リム近辺やオープン3Pが主でも、TS%が高い事は素晴らしいのは間違いありません。「高くなる傾向にある」と言っても、その中で突出して秀でているわけですからね。チームにとって非常に有益な事です。
ただ、以前の記事でも書きましたが、3Pシューターの高いTS%はオープンでのキャッチ&シュートで、リムフィニッシャーはリム近辺でパスを受け取る事で実現した数字、つまり得点期待値の高いシュートを打てる状況をある程度お膳立てしてもらって実現した数字って事も多いです。
今季TS%2位ニック・クラクストンやキャリアTS%歴代1位ルディ・ゴベアや歴代2位ディアンドレ・ジョーダンはシュートスキルが限られていて、比較的イージーなシュートを多く打つのでTS%が高いんです。
大事な事なので繰り返しますけど、これはこれで非常に素晴らしい事です。ただ「TS%が高いから彼らはシュートが上手い」とは言えないだけで。
逆に、チームのオフェンスにおける中心選手やPPGの高い選手はTS%が低くなる傾向にあります。厳しいディフェンスに遭う事が多くなるので。
それでいてTS%歴代5位ステフィン・カリー、歴代10位ケビン・デュラント、歴代3位ニコラ・ヨキッチは・・・・まぁ・・・・
って感じなんですけども。
そして、TS%の面白い部分はまさにソコです。
TS%は2P・3P・フリースロー・リム近辺・ミドルレンジ・ロングレンジ・オープン・タイト等々あらゆるタイプのシュートの効率、あらゆる役割の選手のシュートの効率を一つの数字で表したもの。
全く同じTS%の選手が二人いても、その中身は全く似ても似つかないって事が往々にしてあります。それでいて、よーく見てみたらやっぱり似てる部分もあったりするんです。
前述のステフィン・カリー、ケビン・デュラント、ニコラ・ヨキッチはリーグ史上最高峰の効率とボリュームを兼ね備えたスコアラーです(ヨキッチをスコアラーと呼ぶのは些か違和感がありますが)。
三人は一般的にガード・フォワード・センターに分類されチームにおける役割もバラバラ。得意としているシュートも違います。
ステフは3P、KDはミッドレンジジャンパー、ヨキッチはゴール下やショートミドルフローターのボリュームが多いです。
ステフのキャリアFGA割合。FGAの内、約半分50.6%が3Pです。
KDはFGAの内、約4割40.7%がミドル(リムへの距離が10フィートから3Pラインまでの間のシュート)。
ヨキッチはFGAの内、約6割61.6%がゴール下かショートミドル(3フィートから10フィートの間)
上記を見ると3人はあまり似ていません。
しかし、実は3人には興味深い共通点があります。
3人共ロングミドルが超高確率なんです。
KDは勿論の事、ヨキッチもセンターでありながらロングミドル(リムとの距離が14フィートから3Pまでの間の距離のショット)の確率が48.2%と高精度なんです(ただし量は少なめ)。
ステフィン・カリーのキャリア通じてのミッドレンジ関連のスタッツ。LMR FG%がロングミドル(14フィートから3Pまでの間のシュート)の確率を表しています。
ケビン・デュラント。
ニコラ・ヨキッチ。
引き立て役のようで申し訳ないですが、ミドルが得意なデマー・デローザンや八村塁と比べると、その異質さがわかりやすいです。
デマー・デローザン。
八村塁。
あくまで%が高いだけであって、ステフやヨキッチが「デローザンや八村よりもミドルが上手い」と一概に言えるわけではありません。量や状況その他違いますので。
ただ、KDも得意なミッドレンジジャンパーは勿論の事、3Pやフリースローでも高確率を記録している事から、「史上稀に見る得点効率と得点ボリュームを両立・維持するには広範なシュートスキルが求められる」という事の一つの証左・・・・なのかもしれません。
「得意なシュートを活かそうと思ったら、得意以外も得意になるのが一番」・・・・・って事なのかもしれません。
スタッツ/指標を度外視してシンプルに考えてみても、多才なスキルセット・シュートスキルはそれだけ相手が的を絞った対策・ディフェンスをしづらくなるでしょうから、合点がいく話です。
口で言うのは簡単で、それが出来ないから皆苦労してるわけですけど。
なにはともあれ
TS%は非常に便利なスタッツであると同時に留意点もあって、多くの好奇心を引き出す呼び水でもある。
雑にまとめたところで
今回はこの辺で。ではまた。
余談。
スペースの関係上、ステフ、KD、ヨキッチの三人の数字だけを主だって取り上げましたが、他にも興味深いTS%を持つ選手は沢山います。KAT、ジョエル・エンビード、ヤニス・アデトクンボ他現在に限らず、過去の選手にも沢山です。
で、過去の選手と現在の選手のTS%を比べる際は注意が必要です。TS%に限った話でもありませんが、ルールや環境の発展度が大きく違うので、過去と現在の選手のTS%を二つ並べて単純に優劣を判断するのは誤解の元です。
その問題をある程度緩和してくれるのがrTS%(とTS+)です。ざっくり言うと「リーグ平均と比較したシュート効率の良さ」を表したスタッツです。
レジー・ミラーのキャリアTS%は61.4%。これを今季2023のTS%ランキングに組み込むとリーグ47位でしかありません。
近年NBAは年々オフェンス優勢の傾向が強まり、リーグ平均TS%は上昇してきていて、今季のリーグ平均は58.2%(2023/4/7時点)にもなります。
しかし、レジーが過ごした18年間のリーグ平均TS%は53.0%でした。レジーのキャリアTS%は61.4%なので61.4−53.0で8.4%がレジーのキャリアrTS%になります。8.4%分シュート効率が突出していたって事ですね。
レジーのキャリアシューティング%一覧。
ステフのキャリアTS%は62.7%で、その間のリーグ平均は55.1%。つまりステフのキャリアrTS%は7.6%となります。
ステフのキャリアシューティング%一覧。
TS%だけを見比べると過去の選手のシュート効率は低く見えがちですけど、いずれの時代にもパイオニアは存在していて、過去と現在のパイオニアたちが積み重なって進化が成される。そういう事なんだと思います。
ありがとう、クリス・フォード。
最後、Thinking Basketballからテキトーにいくつか。
今季2023のrTS%ランキング。Pts/75(75ポゼッションあたりでの得点)、リム近辺のFG%、ミッドレンジFG%、各種3P%を併記したもの。2023/4/7時点。
ステフはこんな感じ↓。
やっぱりステフとKDとヨキッチの%はいずれも高数値。
さらにおまけ。
Thinking Basketballによる今季2023ステフのスタッツ/指標一覧。
KD。
ヨキッチ。
まとめると