【NBA】歴代USG%ランキングと得意・効率的なプレイを繰り返す事と対応力の高さとOn-ball gravityと色々。/ハーデン、リラード、トレイ、ヤニス、レブロン、ヨキッチ、ステフィン・カリー、ウォリアーズ、ナゲッツ、マイアミ・ヒート、レイカーズ

目次

【NBA】歴代USG%ランキングと得意・効率的なプレイを繰り返す事と対応力の高さとOn-ball gravityと色々。

10000種類のキックを1度だけ練習した者は怖くない。私が恐れるのは、1種類のキックを10000回練習した者だ。

ブルース・リー

良い言葉ですね。

もう一つ私の好きな言葉、というか好きな小説中の“やりとり”。以下司馬遼太郎著『新撰組血風録』より一部抜粋

「諸君らも、人だけは斬っておくがいい。あれはコツがあって、道場剣術では到底学べぬものだ。抜き打ちを仕損じたならば、あとはかならず上段がいい。道場剣術は“技”だか、真剣となると、もう“気”のものだ。こう」と、箸で剣のかたちをしてみせ、「押して、押して、押しまくってゆく。いつのまにか相手は死骸になっている」と、熱っぽく言った。

同行の三人は、陸援隊道場で戸沢の教えを受けている連中だから、熱心にきいている。

「よしたほうがいい」と、熟蝦夷先生は、例によって陰気くさい咳をした。

「剣には相手がある」

野暮で僭越な解説をしますと、ブルース・リーの言葉は「中途半端に多くの技を磨くくらいなら、一つの技を極めよ」と説き、『新撰組血風録』中のやりとりは「相手を想定していない技の有効性は薄い」と説いています。

バスケには細かく分ければ何千何万種類もの技・動きがあります。
“一つの技だけに秀でている選手・チーム”なんてのはいやしませんが、“他と比較して、得意の技・プレイを頻繁に多く繰り返す選手・チーム”というのは存在します。

近年で代表的な選手・チームにジェームズ・ハーデン(ロケッツ)、ラッセル・ウェストブルック(KD離脱後OKC)、ルカ・ドンチッチ(マーベリックス)によるアイソレーション(以下Iso)。トレイ・ヤング(ホークス)、デイミアン・リラード(ブレイザーズ)のP&Rがあります。超雑に言えば、とりあえず彼らにボールを持たせて1on1か2on2をやらせるオフェンスですね。(※)

※:ハーデンは2016-2020の5年連続でIso数リーグ1位。ラスは2017ー2021の5年連続でIso数TOP3内。ドンチッチはここ2年連続でIso数リーグ1位。

Isoの多い選手は大抵P&Rボールハンドラーも多く務め、上記3人もその例に漏れません。

トレイ・ヤングはここ4年連続P&Rボールハンドラー数でリーグ1位。リラードもTOP3内常連です。リラードはIsoも多め。

詳しく知りたい方はNBA.comのPlayers/Playtype/IsolationページもしくはPlayers/Playtype/Pick & Roll Ball Handlerページへどうぞ

彼らはその卓越したスコアリング・アシストスキルで高いPPG/APG/USG%/AST%を記録していました。彼らがコートにいる時のチームオフェンス効率も高く、違いも生み出していました。

2017-2019ラスのオンコートOffRtgとオン/オフOffRtg。

右端の数字がOffRtg。背景色付きの数字はパーセンタイル。オンコートスタッツ、オン/オフスタッツには留意点も多いですがここでは省略。

2016-2020ハーデンのオンコートOffRtgとオン/オフOffRtg。

2019-2023ドンチッチのオンコートOffRtgとオン/オフOffRtg。

2019-2023リラードのオンコートOffRtgとオン/オフOffRtg

2019-2023トレイのオンコートOffRtgとオン/オフOffRtg。

彼らを中心としたオフェンスは非常に強力だったと言って過言ではないでしょう。

ただ、そのオフェンスを中心としてNBAファイナルに進んだ経験はありません。(ラスとハーデンがファイナルに進んだのはKDもいた2012OKCでの事です)

彼ら自身が超エリートな選手である事を疑ってはいませんが、近年のプレイオフを見ていて強く感じる事の一つに「攻守ともにカウンター、後出しジャンケンは強い」って事があります。「剣には相手がある」のと同様にバスケにも相手がいて、相手を見て攻め方守り方を多種多様に変えられるチームは強いって事です。

そして、それは必ずしも「スキルフルな選手・タレントを多く並べる事」と同義ではないって事です。

2023NBAファイナルで対戦したナゲッツとヒートは、プレイオフ前での下馬評が高かったわけでも「スーパーチーㇺ」と見なされてたわけでもありませんでした。

2023/2/23時点での各ベッティングサイト優勝オッズ一覧。

ヒートの優勝オッズは大体+5500(日本式で言うと56倍)

べッティングサイトBetMGMでの2023ナゲッツとヒートの優勝オッズ推移。上段がナゲッツ、下段がヒート。

下位シードのヒートはまだしも、第1シードのナゲッツですらプレイオフ直前で+1000の5番手予想(ウェスト内ではサンズの+450、ウォリアーズの+800に次ぐ3番手)

優勝した事で、実際にプレイオフで証明した事でジャマール・マレーらの評価は急上昇しましたが、プレイオフ前のヨキッチ以外の選手への評価は決してバックス、セルティックス、サンズ、ウォリアーズよりも高いものではなかったです。

ナゲッツは元々「得意なプレイを繰り返す」というより臨機応変なオフェンスをする事の多いチームです。大黒柱のヨキッチが相手を読んでミスマッチを突いたり作るのが得意な選手で、2メンゲームもシンプルなP&R、シンプルなDHOだったり複雑に派生していったり、アーロン・ゴードンのポストでのミスマッチを見逃さず絶妙な角度でエントリーパスを出したり、相手がゾーンを敷けば味方にカッティングの指示を出したり、それでいてスキの少ないプレイオフでのレイカーズが相手となればマレーと共にタフショットメイカーとして打破したり。

ヨキッチのプレイタイプ毎のPPP一覧。

P&Rボールハンドラーを除き全てエリート効率。というかP&Rボールハンドラーも平均以上ではあります。
これは単にシュートが上手いだけでは実現しません、相手ディフェンスを見て読んで都度適切なプレイを選択する事も相まって実現する超オールラウンドなエリート効率です。

ファイナルの相手となったヒートも“対応力”という観点ではナゲッツに負けていなかったと思います。バックスとのシリーズ始めジミー・バトラーの獅子奮迅の活躍は勿論ですが、エリック・スポールストラHCが繰り出す変幻自在のディフェンシブスキーム、特にゾーンを交えた戦術は練習を重ねチームとして信頼し合い統制がなければ出来ません。Synergy Sportsによれば、ヒートはディフェンスポゼッションの内19.7%でゾーンディフェンスを使用するチームでした(リーグ1位の頻度。2位はブレイザーズの14.9%)

ゾーンディフェンスは使い方、使いどころを誤ると途端に逆効果になる難しいディフェンスです。ただやるだけなら簡単ですが、近年のアウトサイドシュートの上手い選手揃いなNBAでは少しの連携ミス・遅れが致命的なミスとなり特に気をつけなければなりません。実際ゾーンディフェンス使用頻度リーグ2位ブレイザーズのDefRtgはリーグ28位と下位です。

そんな危険性もあるゾーンディフェンスを交えながらセルティックスやニックスのような優秀なオフェンスをするチームも抑え込んだのは見事と言う他ありません。スポールストラHCだけでなく、決して優秀な1on1ディフェンダーではない選手たちも運動量と規律の遵守が素晴らしかったです。レギュラーシーズンではローテ―ション外を経験したダンカン・ロビンソンの貢献も、準備を怠らずチームにコミットし続けた賜物でしょう。

カンファレンスファイナル第7戦でジェイレン・ブラウンの左ドリブルハンドリングの拙さが露わになったのもヒートがしっかりとスカウンティングをしたから、左ドライブを誘発するディフェンス・対応をしたからでしょう(元々問題視はされていましたが)。

2022ウォリアーズも似たような事はしましたね。テイタムらにドライブさせて早めにヘルプ、パスミスを誘発してあわよくばライブボールターンオーバーからイージースコアリングといった感じで。

2022NBAファイナル第2戦、セルティックスは18ターンオーバーで内15個がライブボールターンオーバー、ウォリアーズはそのセルティックスのターンオーバーから33もの得点を得ました。セルティックスは3Pが多く効率的なオフェンスをするチームでしたが、それに対応したディフェンスを敷いてきた相手へ更に有効かつ安定した対応をする事は出来ませんでした。

2021優勝バックスのヤニスも前2年のプレイオフでは“ウォール”でドライブを封じられ、それに対応すべくミドルレンジでのアテンプトやスイングパスを増やし更なる飛躍に繋がりました。

ヤニスの距離毎のFGA割合と%。

昨季2023は向上したミドルレンジの効率が下がってしまいましたが、今季2024はリラードをチームメイトにどんな飽くなき向上心を見せてくれるか非常に楽しみです。

極めて漠然とした印象ですが、レブロン、ヤニス、ステフ、ヨキッチ、古くはマイケル・ジョーダンやラリー・バードら優勝したチームの中心選手ってのは例えMVPを取ろうともそこからの変化を恐れず、対応力が高く貢献の仕方が豊富な選手が多く感じます。

「優勝できなかった中心選手は皆対応力が低い、貢献の仕方が限定的」とまでは思いませんが、「チームメイトに恵まれない」と言われ続ける中心選手と優勝したチームの中心選手との違いには、「チームメイト云々以外の部分の方がずっと大きいのでは?」とも思います。

チームメイトというかチーム全体で各チームに差があるのは当然ですが、だからこそ優勝したチームの中心選手たちはオフボールやディフェンスなど貢献の仕方も豊富でチームメイトと良いシナジーを発揮し互いの能力を高め合い、その結果が「良いチームメイトに恵まれている」とも言われるんじゃないかと思います。

これ以上は“卵が先かニワトリが先か”の議論に近くなっちゃいそうですね。

というわけで以上。

2022&2023セルティックスや超優秀なIsoプレイヤー並びにP&Rハンドラー、彼らを中心としたオフェンスをまるで失敗例の様に語ってしまい大変申し訳ございません。記事の構成上ある程度単純化して語りましたが彼らも当然相手を見て対応もしていますし優勝への決定要素は多岐に渡ります。彼らもまだまだこれから優勝を目指し成長して変化もしていくでしょう。

セオリーめいたものが破られるのもNBAの常です。

お詫び代わりにいくつか。

2019~2023のO-LEBRON(オフェンス面のみにフォーカスした影響指標)とOn-Ball Gravity(ボールを持っている時にディフェンスを引き寄せる能力)の散布図。

各指標の詳しい説明はこちらリンク先へ

右上にリラード、ハーデン、ドンチッチ、トレイが沢山。(各シーズン毎に分けて載せていますので)

歴代シングルシーズンUSG%とAST%ランキング。

USG%もAST%も「単純に高ければ素晴らしい」といった類のスタッツではありませんが、ラスが超頑張り屋さんな事は間違いありませぬ。

現役選手の通算得点ランキングに通算リバウンド数と通算アシスト数と通算出場時間を併記したもの。2023/10/11時点。

ラスは得点で4位、リバウンドで7位、アシストで3位、出場時間で4位。4部門全てでTOP10入りしてるのはレブロンとラスのみです。

ラスが多くの夢とロマンを与えてくれた事も間違いありませぬ。

今回はこの辺で。ではまた。

おまけ。

歴代キャリアUSG%ランキング。

MJ、コービー、レブロン、ウェイドら複数回の優勝を経験したレジェンドスコアラーのキャリアUSG%は非常に高いんですけど、彼らがキャリアハイのUSG%を記録したシーズンは良くてカンファレンスファイナル止まりだったってのがまたバスケの複雑さ・面白さを物語っております。

歴代シングルシーズンUSG%ランキング。

  • URLをコピーしました!
目次