NBA2023シーズンMVP:ジョエル・エンビードとファイナリスト:ニコラ・ヨキッチ&ヤニス・アデトクンボの「変化と献身と勇気」/5年間のMVP投票内訳。/シクサーズ、デンバー・ナゲッツ、ミルウォーキー・バックス
MVP議論ってのは中々に厄介なものです。
レギュラーシーズン中、最も多くの関心を集める栄誉ある賞であるが故に、悲しい形で議論がエスカレートする事もしばしば。
私事で恐縮ですが、単に素晴らしい選手の「良いところ・良くないところ」について語りたいだけなのに「MVPアピール」や「ネガティブキャンペーン」と結び付けられて、議論があらぬ方向へと展開されてしてまう事も多くて、色々気を遣います。
それでもやっぱり栄誉ある賞。嫌になったりしませんし、腐したりもしません。
MVP受賞者・ファイナリストはその年のレギュラーシーズンで“most valuable”「最も活躍した」選手で、その結果に異議があろうと、周囲から何を言われていようと称賛の声を惜しんだりはしません。「良いところ・良くないところ」について語る事をやめたりもしません。
前置き・自分語りはこれまでにして今季2023シーズンMVPジョエル・エンビードとファイナリストのニコラ・ヨキッチとヤニス・アデトクンボについて少し語っていこうと思います。
いつぞやも言いましたが、この3人はここ5年間のMVP投票で「お馴染みのメンツ」です。
2023の投票結果概要。
2022の投票結果概要。
2021の投票結果概要。
2020の投票結果概要。
2019の投票結果概要。
素晴らしいのが、3人共プレイスタイルの変化を伴いながら成績を維持もしくは向上させている事。
まずヤニス・アデトクンボ。
ヤニスに関してはシーズンMVP・ファイナルMVPを受賞した後ですら失敗を恐れず、相手の対策・自チームの状況に合わせた変化を選び、長所をより活かそうとしてる姿勢が大いに見てとれます。私にとってヤニスの1番好きな部分かもしれません。追いかけていて全く飽きない、むしろ失敗こそが愛おしいです。
ヤニスの距離毎のFGA割合とFG%。
一部アドバンスドスタッツ。
ヤニスは入団以降しばらくロングミドル・3Pは得意ではありませんでした。それでも圧倒的な活躍をし2度シーズンMVPを受賞。そのままでも超一流です。しかし更なる向上・優勝のために2021からゴール下以外からのアテンプト(試投数)を増やしました。プレイオフで“ウォール”ディフェンス(相手のドライブ進路をふさぐダブルチームや極端に早いヘルプ)に苦しんだ事も影響したのかもしれません。
ロングミドル・外からのショットが得意になれば、相手は“ウォール”はしづらくなります。ドライブ以外には効果は薄いですし、相手へオープンを与えやすくなり、ボックスアウトもしづらくなってオフェンシブリバウンドを与えやすくなりますからね。
2021年ヤニスは前年と比べ3feet~3Pラインの間のアテンプトを増やし、パスを多くさばきUSG%を大幅に少なくし、相手のディフェンスに的を絞らせない事で大きな成功を収めました。
続く2022年はミドルのアテンプトを増やしただけでなく確率も向上。ディフェンスにおいても、長期欠場となったブルック・ロペスの穴を埋めるため、「時にショットブロッカー、時にヘルパー、時にボックスアウト」etc.と走り回り、本来のものとは違った役割もよく務めていました。
今季2023は数字を見ると、効率は低下しon/offスタッツ・影響指標もヤニスにしては控え目に見えます。
ただ、クリス・ミドルトンの長期不在を受けて、チームのためにより積極的になりUSG%はリーグ1位のキャリアハイ。PPGも初の30超えでキャリアハイ。
W杯予選・EuroBasket2022に出場したオフの少なさも鑑みれば、その働きは称賛以外ありません。
ヤニスの影響度と役割変遷。※画像クリックで拡大
続いてニコラ・ヨキッチ。
当ブログを定期的にご覧いただいている方なら察しているかと思いますが、私はヨキッチを愛してやまない人間です。
単純に言って「面白いから」です。見た事がないプレイ・興味深い意思決定・聞いた事がない言葉etc.私の好奇心をビシバシ刺激してくれます。
聞いた事がない言葉の例↓。
オフェンスに関してはオンボール・オフボール問わず、プレイ・貢献の仕方の引き出しが兎に角多い。ジャマール・マレー、マイケル・ポーターJrら他の選手が好調なら、それに合わせた貢献も出来るので、例えタッチが不調でもチームの不利益になる事が極めて少ない。
今季2023レギュラーシーズンの試合でFG%が5割を切ったのはたったの3試合のみ。
今季2023レギュラーシーズンの試合をFG%が低い順にソートしたもの。
TS%は脅威の70%超え。頼れるチームメイトの復帰・新加入に伴いアテンプト・USG%を下げ、パスやオフボールでの貢献を増やし、レギュラーシーズンウエスト1位へのデカすぎる貢献を果たしました。
ちなみに「USG%25%以上、TS%70%以上」は史上初です。今のところ他の追随を許さず。
これで「ダンク・アリウープは得意じゃない」ってんだから尚更おかしい。
ダンクの多い方々、今季2023ダンク割合ランキングはこちら↓。
2メンゲーム・DHO(ドリブルハンドオフ)でのスクリーナーとしては勿論、ウィークサイドでシューターのためにフレアスクリーンをかけてあげたり、プットバックでフォローしてあげたり、「FGAが少ない」って事はあっても「貢献が少ない」って事は極めて少ないシーズンでした。
アシストについて?
語るだけ野暮です。(語彙力とスペース不足で本記事では省略します、ごめんなさい)
ヨキッチの影響度と役割変遷。※画像クリックで拡大
満を持して、栄えある2023レギュラーシーズンMVPジョエル・エンビード。
スコアラーとして間違いなく今季No.1で、リーグ史上で考えてもTOP〇〇です。(お好みの数字を挿入してください)
エンビード含めスコアリングに長けたビッグマンはよく「dominant支配的」と形容されます。(例.シャキール・オニール)
ただ、現在のエンビードの支配的なスコアリング・貢献は類まれな技術とユニークさと努力と勇気の賜物です。
エンビードは元々ファウルをもらうのが非常に上手く、FTr(FGAに対するフリースローの割合)の高い選手でした。
ただ、フリースローシーンを好む方ってのはあまり多くはないので、ドローファウルの技術は揶揄される事がしばしばあります。
しかし、チーム・勝利にとっては超有益な事です。フリースローは得点期待値の高いショットで、相手はファウルがかさむとインテンシティの高いディフェンスがしづらくもなります。FT%の高いエンビードにとっては正に一石二鳥です。
そして今季2023エンビードの大きな飛躍点・注目ポイントはeFG%の改善。
eFG%は2Pと3Pを合わせたシュート効率を表すもので、TS%からフリースローの要素を省いたもの。
昨季までのエンビードはeFG%はそこまで高くなく、「フリースローを与えない」戦術が有効に働くこともありました。
しかし今季2023エンビードはFG%・eFG%が大きく向上。そして2021と2022に比べFTrは若干下がったにも関わらず、PPGとTS%も大きく向上させました。
つまり、今までよりフリースローに大きく依存せずにリーグNo.1の大量高効率スコアリングを実現しました。
勿論フリースローが下手になったわけでもないので、ポストで対峙した相手からすれば「どないせぇっちゅうねん。誰か助けて」って話です。
2023エンビードのショットチャート。
2022エンビードのショットチャート。
2021エンビードのショットチャート。
2021から2023まで、リム近辺とミッドレンジでの変化・改善がしっかりと見てとれます。今季はジェームズ・ハーデンとのピック&ロール、特にショートロールをした際の連携・ミッドレンジは非常に美しいものでした。
「怪我への懸念が払拭できた」とはまだ言えませんが、その上で攻守エリートであり続けているわけですから、その貢献・献身を否定できる人間はこの世に存在しません。多分いや絶対。
度々物議を醸す発言やジェスチャー・ボディランゲージを見せたりもします。しかし、それだってNBAを彩るスパイスです(一部過激すぎるものを除いて)。
少なくとも、すすんで憎まれ役をやるのは勇気のいる事で、それを躊躇わないエンビードは好む好まずはあれど多くのNBAファンを楽しませている正真正銘のMVPです。
エンビードの影響度と役割変遷。※画像クリックで拡大
以上。
今季2023MVPとファイナリストについてスタッツ上での変化を主にして語ってみました。
こんな極東の個人ブログを見て下さってる方はリーグパスを契約してる方が殆どだと思いますが、もしそうでない方がいましたら是非リーグパスに加入してもらって3人のプレイを全試合ご覧下され。本記事ではその魅力の1億分の1も表せていない事がわかるはずです。
改めまして、NBA2023MVPジョエル・エンビード、本当におめでとう。
ニコラ・ヨキッチ、ヤニス・アデトクンボ共々、末永く楽しませてくださいね。
今回はこの辺で。ではまた。
おまけ。
サムネにする画像を探していて見つけたもの。
違和感が限界突破。