オフェンシブレーティング・ランキングと「マイケル・ジョーダンよりも守るのが難しい選手」から考える、選手個人の積極性と良いチームオフェンスの相関関係etc.

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オフェンシブレーティング・ランキングと「マイケル・ジョーダンよりも守るのが難しい選手」から考える、選手個人の積極性と良いチームオフェンスの相関関係etc.

リーグ史上屈指のPOAディフェンダーであり偉大なポイントガードであるゲイリー・ペイトンは、引退後の2014年頃に「ジョン・ストックトンはマイケル・ジョーダンよりも守るのが難しかった」と発言しました。リンク

訝しげな周囲に対し「君達はストックトンを守った事ないだろ。俺はある」という身も蓋もない発言もしてます。シャックか、お前は。

2分程の短いやり取りの中での発言ですが、ある事を示唆しているようです。

パスやオフボールムーブメントはシュートよりも防ぐのが難しい

ペイトンは討論の中で「我々はストックトンよりも運動能力が高かったが、彼は20pts以上,15ast,4stlを記録し、カール・マローンも活用する。(中略)マイケル・ジョーダンはコンペティターでスコアをしようとする、だが彼にディナイ等をする方が(ストックトンを守るよりも)簡単だった」とも述べています。
念の為というか誤解なきよう書いておきますが、ストックトンはシュート全般も非常に上手かったし、MJはパスやオフボールも得意でした。

MJとペイトンとストックトンのキャリアスタッツ一覧。※画像クリックで拡大

過去のレジェンドのキャリアスタッツは当然選手生活晩年の数字も含まれますので、現在全盛期の現NBAスター達のスタッツと比べると大人しめに見えるかもしれませんが、3人共とんでもねーキャリアスタッツです。勿論スタッツ以外もとんでもねーです。

2023年現在、あるチームとある選手を観ている時、私は上記ペイトンの発言をよく思い出します。

デンバー・ナゲッツとニコラ・ヨキッチです。

ナゲッツは2023/2/8の対ウルブズ戦において44アシスト、1997年「データ革命」以降での史上6位のアシスト数を記録しました。

2023/2/14現在、ナゲッツはOffRtgでリーグ1位。以下はガベージタイムでの数字を省いたCleaning The Glassからの引用。

レーティング他一覧↓。オフェンシブレーティング(以下OffRtg)の高い順にソートしたもの。2023/2/14時点。※画像クリックで拡大

Point Diff列の数字はNetRtg、Offense列の数字はOffRtg、Defense列の数字はDefRtgを表しています。

ヨキッチがコートにいる際、ナゲッツのオフェンスはより強力になります。

ヨキッチのオンコートスタッツとon/offスタッツ。2023/2/14時点。※画像クリックで拡大

本記事の主旨とは離れますが、ディフェンスでも興味深い数字が並んでいます。ヨキッチがコートにいる時は、相手に効率よくFGを決められています(相手eFG%が高くなっている)が、相手にオフェンシブリバウンドとフリースローを与える事は極めて少なくなり、相手ターンオーバーも若干増やす事で結果的にチームDefRtgは大きく向上しています。on/offだけでなくオンコートDefRtgでも83パーセンタイルと優秀な数値です。
小数点表記でわかりづらいですが、%表記と数値はほぼ同じです。ヨキッチがコートにいる時ナゲッツのTS%は64.0%、いない時は55.3%にまで下がります。PBP Stats

ヨキッチは現在平均アシストでリーグ3位。平均パス数でリーグ1位です。

かつ24.9PPGでFG%62.8%、3P%39.1%、FT%82.1%、TS%70.0%と史上稀に見る効率の良いスコアリングをしています。

今季’23ヨキッチのスタッツ一覧。

ヨキッチの驚異的な数字を並べましたが、私は本記事で「ヨキッチすげぇ」って事を書きたいんじゃあないのです。いや、凄いんですけど。

当然ヨキッチにも弱点とされる事があります。雑に言うと、ディフェンスにおいてリムプロテクトが苦手なのは周知の事です。オフェンスにおいても、しばしば「シュートに消極的すぎる」と言われます。

それが最も顕著だったのは2023/1/29の対シクサーズ戦でしょう。この試合、ヨキッチは前半だけでFG6/7の16pts,5astを記録するも、後半はFG2/5の8pts,4ast,6tovと失速。チームも15点差を覆され敗北。サイズ差のあるPJ・タッカーを相手にしながら積極的にシュートに行かないヨキッチには、私含め多くのNBAファンがヤキモキした事でしょう。

何故でしょう。NBA史上でも屈指のBBIQを持つと言われる選手が何故シュートに消極的になるのか。または我々ファンの目にそう映るのか。

有り体に言ってしまえば、前述のスタッツ群が示すように、時に消極的に見えるその姿勢がナゲッツの強力なオフェンスを生んでいるからでしょう。
史上屈指のスコアラー達や史上No.1の3Pシューターであるステフィン・カリーが時に無謀なシュート/3Pを打ち過ぎてしまう事があるように、ヨキッチも判断ミスをする事はあるでしょう。
しかし、それら判断ミスは「彼らの試合へのメンタリティに問題がある」という事を意味してはいません。1試合内・短期間内でのアジャストメントで「パスを回していこう」云々と指示なりアドバイスを出す事はあっても、実績を重ねたステフやMJに対して“メンタリティそのもの、ディシジョンメイキングそのものの変更を求める”コーチや人間は、そうはいないでしょう。

勿論ヨキッチにはステフやMJほどの実績はありません。もしかしたら、ヨキッチの“常に自分ではなくチーム全体のスコアリング効率を意識した姿勢”が致命的な問題になる日が来るのかもしれません。

しかし、その日は今ではありません。

もしヨキッチが“常に自らのショットクリエイトに積極的な姿勢”を持ち、効率を犠牲にしてでも自らのPPGを増やす事を優先したのなら、それは現ナゲッツのチームオフェンスを捨てる事を意味します。
今のヨキッチは、優秀なスコアラーであれば1on1を仕掛ける様な場面でもオープンマンを見逃さずアシストを出します。もしも、それがなくなればアーロン・ゴードンのダイブカットを始めとしたカッティング/オフボールムーブメントは少なくなります。ポストやペイント内でヨキッチ自身に得点させるのにダイブカットされたら邪魔になりますし、パスが来ないのにオープンマンを作っても意味がありません(囮になる事はあります)。
逆に言えば、チームメイトたちは「いかなる状況でもオープンになればヨキッチからパスが来る」と信じているからオフボールで活発に動き、走るのでしょう。

↓はその一例です。

ハーフタイムまで残り0.9秒でロケッツのフリースロー。普通は打って終わり。しかしナゲッツのPJ・ドージャーは走り、ヨキッチも即座に応えフルコートパス。
https://twitter.com/BasketNews_com/status/1605450730143449088
「可能か不可能か」を考える必要はなく、走りさえすれば、オープンにさえなれば、なんやかんやパスが来る。

2023/1/29のシクサーズはヨキッチに対し見事なディフェンスを披露しました。
通常ヨキッチにはビッグマンがマッチアップします。ヨキッチはハイポスト・エルボー他高い位置でプレイメイキングをし相手ビッグマンを自然とリムから遠ざけ、リムプロテクター不在のリム近辺へとアーロン・ゴードンなりがダイブカットを狙い、それをディフェンスがケアし過ぎればアウトサイドシューターが空きます。ナゲッツのFG%51.1%と3P%39.3%は共にリーグ1位です。

しかしシクサーズはヨキッチにPJ・タッカーをマッチアップさせる等して、あくまでジョエル・エンビードをリムの近くに居座らせました。エンビードを高い位置にいるヨキッチに当てるのでなく、あくまでリムプロテクター・ヘルパーとして効果的に活用させました。

エンビードのオフェンスでの47得点モンスターパフォーマンス含め、この試合のナゲッツとヨキッチはシクサーズに完敗と言って差し支えないでしょう。見事な攻守でありアジャストメントでした。

そして、“他チームへの大きなヒント”なのかもしれません。ヨキッチにビッグマンを当てずに、ビッグマンはリム近くに留まらせる。もしくはビッグマンを複数同時起用して、リムプロテクトを確保する。今後そういった守り方がヨキッチへは増えるのかもしれません。

そして2023/2/8のウルブズ戦、ウルブズはバックアップセンターのナズ・リードとルディ・ゴベアを同時にスターター起用し、ナズ・リードをヨキッチにマッチアップさせました。恐らくはゴベアをよりリムプロテクターとして機能させたかったのでしょう、シクサーズの様に。(ナズ・リードがスターターを務めたのは今季10試合で、ゴベアと同時にスターター起用されたのは、この試合のみ)

上手くいったかと言うと・・・・・・・・・・第1Qだけで49-19とナゲッツが早々に勝敗を決しました。ヨキッチ自身も前半だけでトリプルダブル、28分のみの出場で20pts,12peb,16ast,TS%82%,+40。

・・・・・・・・

 新潮社
TBS

シクサーズがヨキッチにとった守り方は本当に有効な戦術だったのか、ヨキッチが不調だっただけなのか、有効な戦術だったとして真似できるチームは他にあるのか、あったとしてヨキッチは次にどういったアジャストを見せるのか、そのアジャストは“自らが積極的にシュートに行く事”なのか、それとも我々が予想もつかないプレイメイキングをまた見せてくれるのか。

ナゲッツ/ヨキッチのオフェンスと相手のディフェンス、両方を楽しみにするとしましょう。

今回はこの辺で。ではまた。


余談というか私見というか愚痴というかメモみたいな後書き。

実際はプレイヤーの姿勢を「消極的/積極的」でハッキリと二分できるわけはなく、選手がプレイ毎に相手ディフェンスを見て、自チーム状況を鑑みて、ケースバイケースで「どうすべきか」を判断しての結果ですから、得点・USG%・FGA等の数字を見て「消極的」だの「打ち過ぎ」云々を語っても具体的な考察や面白い推論は生まれないと思うんですけども・・・・・

・・・・これがまた難しいです。
相手ディフェンシブスキーム毎のスタッツを正確に記してくれてるサイトもありませんし(近いのはSynergy Sportsってのがあります)。
アイテスト(実際に試合を観て評価する事)だけを頼りにすると、どうしてもバイアスに左右され、記憶できる量にも限界があります。

ヨキッチのプレイスタイルは時に「消極的」と言われ、ドンチッチは時に「持ち過ぎ、打ち過ぎ」と言われますが、二人に限らず各々のプレイスタイルが本人由来なのか、コーチング由来なのか、どれだけの要因が組み合わさってのモノなのかも、外からでは判断しづらいです。

・・・・・うーん。まぁ、好きに妄想して楽しむ事にしましょう。

ってね。

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