常に“セオリー”を求めるコピーキャット・リーグなNBA。常に新しい“セオリー”が生まれもするNBA。/デンバー・ナゲッツの歴史と公式テーマソングと感極まるラジオクルーとグーグルの隠し要素と子供たち。
ナゲッツが優勝までに歩んだ軌跡を私なりに雑に表すと
“Homegrown Player”(自チームでドラフトされ育成された選手)と長期的な見通しをもったチームビルディング。アンセルフィッシュな勝ち方を目指したチームカルチャー。
となります。
流石にナゲッツのNBA加盟後全ての軌跡を辿るのは時間もスペースも足りないので、カーメロ・アンソニー(以下メロ)中心時代末期から優勝までのフロントとコーチの働きをかいつまんで説明。
メロ時代は2009シーズンを除き、プレイオフ1回戦敗退続きでした。
メロはトレードリクエストをし、2011シーズンに地元生まれで人気のあったチャウンシー・ビラップスらと共にニックスへ移籍。(この時に得た指名権で後にジャマール・マレーを獲得しています)
しかし、その後も周囲の予想に反し2013シーズンまではプレイオフ出場を続けます。レギュラーシーズン成績のフランチャイズ記録は今でも2013シーズンの57勝25敗です。(追記:ABA時代を含めると3番目)
ただ、その2013シーズンもプレイオフ1回戦を突破できず、その年コーチ・オブ・ザ・イヤーをとったジョージ・カールをまさかの解任。マサイ・ウジリGMも解任しティム・コネリーが新たにGMに就任。
2014シーズンは10シーズンぶりにプレイオフを逃しますが、ドラフト2巡目41位指名で後のファイナルMVPニコラ・ヨキッチを獲得します。
ウルブズでの仕事で現在評価が急落しているティム・コネリーですが、こと人材発掘と選手との関係構築に関しては非常に優秀かと思われます。ヨキッチ他優秀な選手たちの指名を「偶々」「幸運」で片づける事も可能と言えば可能です。コネリー自身が「ラッキーだった」というくらいです。
しかし、ヨキッチのセルビアでの恩師ミシュコ・ラズナトビッチと綿密に連絡を取り合い、ヨキッチとナゲッツ双方が成功するための架け橋として、コネリーは最高の仕事をしました。
2016シーズン、マイケル・マローンHCが就任。
いつぞやも言いましたが、コーチング、特にNBAのコーチングは外部からの評価が極めて難しいです。理由を雑に説明しますと「チーム・試合・シーズンによって求められている仕事が違うから」「チーム・選手の状態や、やりたい事が外からはわからないから」です。
基本的にファンは目の前の勝利を重視する傾向が強いですから(ファンは当然そうあるべきだと思います)、コーチがとる戦術や選手起用を不可解に感じる事も多くなります。
しかし
Life is a marathon.
Not a sprint.
人生は短距離走ではなくマラソンだ
プロスポーツや教育現場でもよく引用されるこの格言通り、優勝への道のりは短距離走の連続ではありません。好むと好まざるとにかかわらず。正直言いまして私は毎試合「全力疾走な試合」を観たいですが、毎試合全力疾走では選手の体はもちませんしチームの成長も滞りがちです。
我慢と全力疾走のバランス・匙加減はコーチにとって非常に難しい問題でしょう。自ずと外からそれを評価する事も非常に難しくなります。(念のため書いておきますと「ファンはコーチングに文句言うな」って言いたいんじゃないですよ。あらゆる人間が喧々諤々楽しめるのがプロスポーツ観戦の大きな魅力ですからね)
この「我慢と全力疾走のバランス」を良好にするため、ティム・コネリーとマイケル・マローンHCと実質的なオーナーのジョシュ・クロンキは事あるごとにコミュニケーションを取っていました。そしてマローンHCやティム・コネリーは地元紙主催のポッドキャストNuggets Inkや多くの地元コミュニティ・メディアに顔を出し、その考えをシェアしてくれていました。こういったファンと地元メディアと意識の共有を図る試み・理解を求める事も長期的なチームビルディングにとって大事な事なのだと思います。ファン・メディア・チーム間での険悪な雰囲気はそれだけで選手を遠ざけてしまう事もあるでしょう。
マローンHCは2023シーズンで就任8年目。8年目まで優勝を待ってくれるオーナーやファンはそう多くありません。
名門サッカークラブのアーセナルなど多数のプロスポーツを所有するオーナーグループ、クロンキ・スポーツ&エンターテインメント(以下KSE)は豊富な資金力を持ちますが、金払いには非常にシビアでした。恐らく今も。
そのKSEに我慢をさせるため、タックスを払わせるため、マローンHCやコネリーがどれだけの交渉・努力をしたかは想像の及ばないところです。ジャマール・マレーやマイケル・ポーターJr不在時のヨキッチやアーロン・ゴードンたち選手の奮闘もオーナーグループ説得に大いに役立ったことでしょう。
ジャマール・マレーはNBAデビュー後4試合でFG0/16で2得点。練習態度を理由にマローンHCからベンチからの観戦を科せられた事もありました。
ヨキッチも始めからチームの中心だったわけではありません。半ばユスフ・ヌルキッチとの2択を強いられ、ヨキッチを選んだ後も周囲には依然として疑問の声がありました。
ナゲッツの優勝はこの二人を始めとした選手たちの才能だけを頼りにして生まれたものではありません。前述の通りコーチやフロントがマレーとヨキッチを長い目で見て信じ、フィジカル改善・怪我の回復を待つ環境を用意し、長く手厚くサポートを続けたからこその優勝とも言えます。
マイケル・ポーターJrは元々全米No.1プロスペクトだったのがヘルニアの手術でカレッジでの試合経験は3試合のみ、ナゲッツからの14位指名獲得後に2度目の手術。観客を多く見込めるルーキーシーズンを全休。
2年目も無理をさせず我慢の起用法。背中腰の事情をわかってはいても怠惰に見える姿勢・判断の拙さがありました。3年目にシューターとして更なる飛躍を遂げるも4年目に3度目の手術。
マレーと共に2022シーズン中の復帰も噂されましたが、復帰を焦らせる事はしませんでした。
ケンタビアス・コードウェル・ポープを獲得するための貴重なトレードアセットとなったウィル・バートンとモンテ・モリスの二人は2巡目指名出身です。ナゲッツで着実に出場時間を増やしていき評価を高めた事がKCP獲得に繋がりました。
アーロン・ゴードン獲得の主なアセットとなったゲイリー・ハリスも怪我がちになっていたとは言え、その前の5年間の活躍がなければアーロン・ゴードンとマッチするだけのサラリーにはなっていませんでしたし、オーランド・マジック側も納得しなかったでしょう。
ネッツから再契約オファーのなかったブルース・ブラウンにいち早く連絡を取り、起用法についても丁寧に確認を取り合った事が獲得へと繋がりました。
2022シーズン途中に加入しベンチから貢献を続けるもプレイオフでチームメイトと揉め事を起こしたデマーカス・カズンズと再契約をせず、2023シーズン途中で起用法への不満を露わにし試合中勝手にロッカールームへと下がっていったボーンズ・ハイランドを放出した事も「チームワーク」「アンセルフィッシュである事」を重視するナゲッツのチームカルチャーの表れだと思います。(ボーンズのフラストレーション自体は若手として悪い事とは思いませんが、如何せん健康となったナゲッツとは相性がよろしくなかったんだと思います)
散々な言われ様だったディアンドレ・ジョーダンとミニマム契約を結んだことやジェフ・グリーンの存在もポール・ミルサップのいなくなったナゲッツに、ベテランによるリーダーシップ・ローカールーム効果を再度もたらしました。
選手たちのプレイ・努力こそが第一にして最大の勝因である事は間違いありませんが、コーチとフロントから始まったチームビルディング、コーチとフロントによって育まれたチームカルチャーも語るには避けて通れない大きな勝因だと感じます。
そして、このナゲッツのチームカルチャーとチームビルディングはまさにヨキッチが例えた通りです。
There is no shortcuts.
It’s a journey.
近道はありません。それは“旅”です。
とかくNBAファンは「○○では優勝できない」「優勝にはスターが〇人必要」等々とセオリーを決めたがります。
ファンに限った話でもありません。NBAは“Copycat League”「コピーキャット・リーグ」(物真似ばかりのリーグ)とも言われるくらいですから、多くのNBA関係者が勝利へのセオリー・お手本を求めているのでしょう。
しかし、チームによって選べる道筋は違います。FA人気や豊富な資金力のあるビッグマーケットチームとそうでないチームでは選べる道も当然違います。
歩いて“旅”を続ける道を選んだナゲッツにとっては、この10年間歩んできた道全てがスキップする事の出来ない道だったのでしょう。だからこそ逆境に負けない強いチームとなったのでしょう。
来季優勝するチームはどんな道を選んだチームになるのか。どんな道筋が作られるのか。
来季の優勝は飛行機で目的地へとひとっ飛びしたチームなのかもしれません。楽そうに見えた飛行機の道も、実際は乱気流や嵐の連続で選手たちを逆境に強くする事も沢山あるでしょう。
いずれにせよ、そこにセオリーと呼べるほどの決まった道筋はなく、各チームが作った道筋を各チームが全力で進んで行くだけなのだと思います。選んだ道筋の違いに貴賎の差もないはずです。
願わくば、NBA全チーム健康と幸の多い旅であらんことを。
今回はこの辺で。ではまた。
おまけ。
1976年に存在したナゲッツ公式テーマソング。
歌詞。
ナゲッツの歴代戦績。
Googleで「nuggets」と検索すると表示されたイースターエッグ(隠し要素的なもの)。
優勝の瞬間、47年の旅路を思い、感極まるラジオブロードキャスターのコズさん。
コズさんは試合後のシャンパンファイトにも参加してハッチャけておりました。
NBAを見たり関わっていると皆子供になるようです。・・・・・わかる。