NBAの今と過去、何が変化して、何故ロードマネージメントが増えたのか。4年間の負傷者数と欠場試合数、リーグ平均の変遷etc.

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NBAの今と過去、何が変化して、何故ロードマネージメントが増えたのか。4年間の負傷者数と欠場試合数、リーグ平均の変遷etc.

Basketballnews.comロードマネージメント(※)について興味深い記事を書いていまして。

※:Load Management。ロードマネージメント。直訳すると「負荷管理」。怪我をしているorプレイ不可能な状態なわけではないが予防策的に選手を休ませる事を言います。

近年、注目選手のロードマネージメントが多くなり、Basketballnews.com以外でもThe AthleticESPN他あらゆるメディアで度々話題・記事が上がり、物議を醸しています。

しかし、本記事は“ロードマネージメントの是非”や“ロードマネージメントを頻繁に行う選手たち”を断罪もしくは擁護するためのものではありません。

過去と何が変化して、何故ロードマネージメントが増えたのか。

これをもう少しだけ掘り下げてみようと思います。パッと見あまりポジティブな話題には思えませんけど、中々どうして面白いデータや情報も見つかった事ですしね。

まずは「選手/チームがロードマネージメントをする理由」ですが、これは単純に言うと「怪我をしたくない、させたくないから」です。ロードマネージメントは主にレギュラーシーズンゲームで行われるので、もう少し掘り下げて言うと「大事な試合・プレイオフに万全を期すため」です。

しかし、「怪我をしたくない、させたくない」「大事な試合・プレイオフに万全を期したい」のは過去のNBA選手たちも同じだったはずです。ですが、過去選手たちのロードマネージメントや欠場試合数はずっと少ないです。

以下は昨季’22と’17の出場試合数ランキング。総出場時間を添えたもの。※画像クリックで拡大

2022シーズン。全試合出場は5人。
5試合欠場未満選手は25人。

2017シーズン。全試合出場は17人。
5試合欠場未満選手は84人。

パンデミックによるスケジュール圧縮がありましたので、’20~’21の出場試合数関連データから選手の可用性について推論する事には注意が必要ですが(特に世界各国代表選手)、ここ5年間で「選手が試合に出ない傾向」が更に強まったのは間違いありません。
今から10年前の’13シーズンですと全試合出場選手は28人、5試合欠場未満選手は104人。20年前の’03は全試合出場選手46人、5試合欠場未満選手117人にもなります。

ここ5年、ここ10年近くで変化した事の中で、ロードマネージメントと関係していそうな事は何があるか。

ペース・運動量の増加

3P革命・ペース&スペース・リード&リアクトというトレンド/概念が浸透し、ペース・ポゼッション数が増加、ビッグマンでもロングミドルや3Pを打ち、ペリメーターでの攻防も増えました。つまり、水平方向の運動量がより求められます。

ここ20年のリーグ平均一覧。一番右列がペース。2023/3/29時点。※画像クリックで拡大

前述のBasketballnews.com記事内で、マイク・コンリーは過去在籍(’08~’19)した“Grit&Grind”グリズリーズについて「私はフィジカルな時代の一部分だった。我々はフィジカルなチームで、現代とは違う負担があった。痣や打撲を抱えながらプレイしていた」と述べています(以下含め一部抜粋翻訳)。

その一方で「現代は48分間全力疾走しなければいけない感じだ。より多くのポゼッション、より多くの非接触型損傷(non-contact injuries)。多くの選手たちがふくらはぎやハムストリングスなどに問題を抱えている。以前はそこまで多くなかった事だ」とも述べています。

ここ10年でコンリーらガード/ウィングは勿論、ビッグマンですらコート上での走行距離は増加しています。

今季’23と’14のセンター登録選手1試合平均走行距離ランキング。(’14以前のデータはないです。)

2023

センター扱いに違和感ある選手もいますが、「そういうもん」と思って頂ければ幸いです。

2014

ハンドチェックの禁止やフィジカルコンタクトは減少しても、過去よりも水平方向の運動量が増えたため一概に「怪我のリスクが減った」とは言えません。

“運動量の増加で生じる疲労の蓄積による非接触型損傷”は“他者との衝突などで偶発的に生じる接触型損傷(contact injuries)”よりは予防策を講じやすい。

その予防策の一つがロードマネージメントなわけですね。

選手のエンパワーメントの増加

“Empowerment”「エンパワーメント」。ざっくり言うと「組織内での権限」って意味です。

決して「選手がワガママになった」「サボれるようになった」って事ではありません。「チーム(フロント・コーチ)が選手自身の意見・人生を尊重し重んじるようになった」という事です。

過去、強豪チームの中心選手とフロント・コーチの仲がこじれて、不本意な形で解体となった例は枚挙に暇がありません。
チーム内人事に不満を持ったマイケル・ジョーダンの2度目の引退を生み、カワイ・レナードとスパーズスタッフとの意見の相違は移籍に繋がりました。

上記含め各事情は複雑な要因が絡み合っての事でしょうから、コミュニケーションや意思疎通の機会、嫌な言い方をすると「御機嫌取り」を増やしたところで移籍・離脱を避けられるとは限りません。

ただ、確かなのはフロント・コーチ他関係者は選手により気を遣うようになりましたし、日に日に選手からのトレード要求・不満の表明も増えてきています。スター選手に限らずですし、ファンも慣れてきたようで、トレード要求に対する嫌悪感も薄れてきているよう感じます。

ケースバイケースでしょうから一概には言えない部分も多いですが、NBA内外で選手個人の意見・人生が尊重されるようになり、チームと選手の意見のやり取りが双方向になった。つまり試合出場の可否判断にチーム側(コーチ・スタッフ)と選手側(選手自身・エージェント)両方の意見が重要になった。チーム側が一方的に無理をさせる事は少なくなったでしょうし、逆に無理をしたがる選手をチーム側が休ませる事もあるでしょう。

正直、選手のエンパワーメント・出場可否判断の詳しい事情は外からでは、ほぼ確認できないので憶測まみれですけど、その一端が垣間見えるシーン・逸話はよく見聞きします。レブロン・ジェームズやケビン・デュラントのようなスーパースターは言うに及ばず、ミッチェル・ロビンソンやボーンズ・ハイランドも起用法への不満を公然と露わにする時代ですからね(それが良いか悪いかはいざ知らず)。

余談。
ちょっと違いますけど、“コーチズチャレンジ”を選手が人差し指ブン回して促してるの見ると少し笑っちゃいます。
某HCが「選手からの要求ではチャレンジしない。ACにビデオで確認してもらって判断を任せてる。なんせ選手は人生で一度もファウルした事がないと思ってるからね」と冗談めかして笑っておりました。一理ある。

負荷管理技術の発達

「負荷管理技術が発達してるのなら欠場が多くなるのはおかしい」「ロードマネージメントが増えているのに怪我が減らないのはおかしい」、そう御思いの方、当然の指摘です。

’17~’21のInjury Report(※)を基に統計を取って論文を書いてくれてる方がいて(リンク)、論文内でも「怪我は増加傾向にある」と結論付けています。

’21は392選手が負傷、負傷による欠場試合数は5228試合。ロードマネージメントが盛んになり始めた’18よりも増加。

※:チームが決められた時間にリーグへ提出しなければならない負傷者リスト。内容が不正確過ぎると罰金が科されます。試合直前に「やっぱ出場します」「やっぱ出ません」とか許しちゃうと対戦相手や試合を観に来るお客さんが多大な不利益を被りますからね。NBA公式サイトNBA Officialで確認できますけど、見やすいのはESPNのページ。TwitterではUnderdog NBAというアカウントが随時速報を届けています。

しかし「ロードマネージメントが選手の欠場数抑制に繋がっているのか」それとも逆に「増やしているのか」は私は断定しかねます。欠場数は間違いなく増えてるんですけど、ただそれはもしかしたら「ロードマネージメントが功を奏して、その程度の増加で済んでいるのかもしれない」からです。
前述の運動量の増加・パンデミックの影響によるNBAの圧縮日程・各国代表選手のオフの少なさ等による「怪我のリスクの増加」を現在のロードマネージメントが抑制している可能性をハッキリとは否定も肯定もできません。

話の順番が前後してしまいますが、ロードマネージメント・出場可否の判断は「何となく」で行われるわけではありません。チーム・選手双方の判断によって行われます。「負荷管理技術の発達」というのは主にチーム側の判断に影響を与えるものです。

負荷管理技術の発達」とはズバリ何なのかと言うと、選手の健康状態や試合でのパフォーマンス内容を数値化して客観的に見る事です。

NBAに限らず、アスリートの血液中のホルモンやタンパク質濃度を定期的にチェックする等医学的アプローチの話は珍しくありません。特に予防としてのスポーツ医学の発展とNBAでの採用の増加は最近よく見聞きします。前述のBasketballnews.com記事もその一つです。

もう一つ、Player trackingプレイヤートラッキングの発達。
プレイヤートラッキングとは、ざっくり言うと、試合中の選手の動きを専用のカメラで細かく追跡し数値化・記録する事です。

’14シーズンからカメラ・システムが設置、計測が開始され、「選手が何回ドリブルしたのか」「一度のポゼッションあたり何秒ボールを保持していたのか」「何度シュートへコンテストしたのか」「どれだけボックスアウトしたのか」等々、試合中の多くの動きを数値化・定量化できるようになりました(全てではありません)。「サンズでのクリス・ポールの出場時間はトラッキングデータを基に緻密に計算されている」との記事もありました(以前見た元記事へのリンクを貼りたいんですけど、どうしても見つからない。ごめんなさい)。

余談。
来季’24からはHawk-Eyeホークアイも導入され、「レフェリング精度や試合進行速度の向上が見込める」との事です(記事リンク)。

つまり、選手の負担や健康状態を把握しやすくなり、選手の体の救難信号に気付きやすくなった

「スポーツ医学の発達」&「プレイヤートラッキングの発達」≒「負荷管理技術の発達」が選手の異常を発見しやすくし、チームは予防策・ロードマネージメントを講じやすくなり、躊躇わなくなった。

以上。

まとめると

過去と何が変化して、何故ロードマネージメントが増えたのか。

その答えは

ペース・運動量の増加

選手のエンパワーメントの増加

負荷管理技術の発達

・・・・・かもしれません。

どんな怪我も寝て直ぐ治れば良いんですけどね。こんな感じで↓。

長くなったので今回はこの辺で。ではまた。

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