正直過ぎるドンチッチ/ヨキッチ/ヤニスetc.が語る「NBAとユーロ/FIBAの違い」、誤解はされても興味深い。

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正直過ぎるドンチッチ/ヨキッチ/ヤニスetc.が語る「NBAとユーロ/FIBAの違い」、誤解はされても興味深い。

ルカ・ドンチッチがルーキーの頃、“It’s easier to score in the NBA than in Europe”「NBAで得点するのはヨーロッパより簡単」と発言して、ちょっとした物議を醸しました。

とても興味深いんですけど、この手の「NBAと他リーグの比較」の発言はしばしば「NBAvs○○」「NBAと○○はどちらがレベルが高いのか」と受け取る方や、そう言った方向で話題性を高めようしたり、炎上させようとする報道の仕方をされてしまいます。

案の定、ドンチッチも一部メディアや一部NBAファンから「欧州出身ルーキーからのNBAへの軽視」と受け取られて、要らぬ非難を受けたりもしました。

しかしドンチッチのレアルマドリード最終年のスタッツは14.18PPG,FG45.0%3P31.0%と当時NBA(2019年2月9日時点)で記録していた20.6PPG,FG43.2%,3P34.9%よりも大人しいもの。(ただヨーロッパでも大活躍はしていました、ユーロリーグMVPですし)

さらに、スターになる事が約束されているかのような活躍を見せていたドンチッチの説得力のある発言という事もあって、多くの興味深い考察や議論を生みもしました。

それに、件の発言はスペインメディアとのインタビューでのものですし、日本のプロ野球に来た元メジャーリーガーがわざわざ日本メディアに対して「日本のプロ野球よりメジャーリーグの方がレベル高い」なんて言わないのと同じで多少の気遣いもあったかもしれません。

・・・・・今年3月JJ・レディックのポッドキャスト“The Old Man & The Three”でも同様の発言をしてるので、やっぱりただの「本音」のようです。

それはさておき、先日のメディアデーではヤニスも同様の発言をして、ヨキッチもそれに同調しました。過去にはデイミアン・リラードやコービー・ブライアントも似たようなコメントを残しています。


他にも「NBAとヨーロッパ/FIBAのルールや違い」について興味深い意見/考察をしてくれた元NBA選手は沢山います(※)。

※:NBAを経験した選手はヨーロッパや他リーグに移った際、大抵「NBAでの経験や違い」を聞かれます。その返答の一部を抜き取られ、それが「ディスリスペクト」や「負け惜しみ」と受け取られて一笑に付されてしまう事もしばしば。最近ですとマリオ・ヘゾーニャが些か気の毒でした。

万が一にも誤解のない様に、もう一度書きますが「NBAはヨーロッパやFIBAより簡単」だとか「NBAのディフェンスはレベルが低い」とかそういう話ではありません。

注目したいのは、上記発言をした選手たちは同時に「NBAはより高いタレントを持っている」「ルールの違いによってスコアリング難易度の差がもたらされている」と示唆している事です。
それが正解かどうかはわかりませんが、少なくともMVPやスターはそう感じています。少し具体的に言うとドンチッチやヤニスは「NBAはスペースが広く、ヨーロッパは狭い」旨の発言をしています。
ヨキッチは「ディフェンシブ3セカンドバイオレーション(以下ディフェンス側3秒ルール)の有無の大きさ」を指摘しています↓。

(ユーロ/FIBAではディフェンス側3秒ルールがないので)素早い判断が必要です。

NBAでは誰かを抜いた後にヘルプが来るのを見ることが出来ますが、ヨーロッパではすぐそこにいます。先のプレーを考えておく必要があります

メディアデーインタビューから一部抜粋/翻訳

ヤニスとヨキッチが「NBAでプレイ/得点する方が簡単」という旨の発言をしている事実は私にとって非常に面白いです。

なぜならNBAにはこれまで「ビッグマンの活躍を制限し、小さな選手の活躍を推奨してきた歴史」があるからです。ジョージ・マイカン、ウィルト・チェンバレン、カリーム・アブドゥル・ジャバー、シャキール・オニールらビッグマンの支配的な活躍を制限して、比較的小さな選手の活躍を手助けする様々なルール変更がなされてきました。

レーン/ペイントエリアの拡大、フリースロー時レーンバイオレーションの導入、ダンクへの嫌悪感(今はもうないですね)、フリースローのプットバックは1点のカウントでしかもフリースローを打った選手の得点とされる(1970年前に廃止)、ハンドチェックの禁止、ギャザーステップの承認、キャリー(パーミング)の黙認、不自然なシューティングモーションでのドローファウル黙認(昨季から一部廃止)etc.

上記ルール変更は、何も「ビッグマンへ意地悪をするため」に導入されたのではなく「NBAをより人気にするため」に導入され、結果も成功しているのですから文句のつけようがありませんし、勿論私も不満ありません。

しかしヨキッチが言及した「ディフェンス側3秒ルール」。
このルールは2001シーズン中にゾーンディフェンスの解禁に伴って導入されたルールですが、当時NBAが想定していた効果とは違った効果を現代のNBAにもたらしているように感じられます。
この「ディフェンス側3秒ルール」によりビッグマン/リムプロテクターはペイント内にキャンピング/留まることが出来なくなりました。よって小さな選手/素早い選手がよりペイント内へとペネトレイトしやすくなります。
「試合展開がよりスピーディーに、より魅力的になり更なる人気へと繋がる」との思惑がNBAにあったとされています。

「その試みは成功したのか?」と言えば、答えは微妙です。人気は上昇しましたが、それが「ディフェンス側3秒ルール」に拠るかは怪しいところですし、「試合展開がスピーディーになった」とも「得点が増えた」とも言いづらいです。
導入当時2001シーズンのペースは91.3。翌2002シーズンは90.7。以降91.0→90.1→90.9→90.5→91.9→92.4→91.7と推移しました。
平均得点は2001シーズンの94.8から95.5→95.1→93.3→97.2→97.0→98.7→99.9→100.0と増加していきますが2012年には96.3と大きく落ち込みました。
ただビッグマンのスコアリングは間違いなく減りました。それもつい最近まで長い事。
2000年代前半、シャックは健在だったものの、ディフェンシブなベン・ウォレスや、ガードやフォワードと比べるとPPGの少なめなセンターがAll-NBAに選出される事が目立つ様になります。
大事な事ですので言っておきますが、彼らは間違いなく「選ばれるのにふさわしい選手」です、ただスコアリング能力に関して言うと「ディフェンス側3秒ルール」の存在でハンドラー/ウィングによるインサイドへのペネトレイトが容易になり、またそのアシスト能力でその後の選択肢も多くとれることから相対的にビッグマンへの依存度が減ってしまいました。
ドワイト・ハワードこそセンターとしてAll-NBA-1st常連となりましたが、2000年代後半以降になるとAll-NBAの中に純センターの名前はみるみる減っていき、スコアリングに物足りなさを感じる人選が増えていきます。

他にも途中途中で「細かなルール変更」や「従来とは違ったビッグマンの出現」など色々な出来事がありました。

そして現代。ここ4、5年でセンターというポジションにとって革新的な選手たちが台頭します。ジョエル・エンビード、カール・アンソニー・タウンズ、クリスタプス・ポルジンギス、冒頭のドンチッチ/ヨキッチ/ヤニスです。

従来のビッグマンと違い広いシュート範囲を持ちドリブルハンドリングも躊躇わない、アシストにも意欲的なビッグマンの出現。
つまり「ディフェンス側3秒ルール」はハンドラーやウィングだけのアドバンテージではなくなり、ハンドラーやウィングに近いスキルを持つヨキッチやエンビード、KAT、KP、ヤニスたちにとって枷にならず、むしろ自身の長所をより活かせるルールとなったのです。

20年の時を経て「ディフェンス側3秒ルール」は“選手を制限するルール”から“NBAやビッグマンの個性を際立たせるルール”へと変貌を遂げたのです。

そう考えると、なんだか少し面白い気がします。

また、ドンチッチとヤニスはセンターではありませんが、彼らの存在も「選手の個性/自主性を重んじる育成メソッド」へNBAが更に目を向ける大きなキッカケの一つになり、最近はアルペレン・シェングンのようなユニークなセンターをリクルートしたり、ユーロリーグや代表コーチをNBAチームへ招聘する事にもつながっています。
ゴールデンステイト・ウォリアーズの現育成担当ACはヨキッチのいたKKメガバスケット(チーム名がコロコロ変わるチームでややこしい)の元HCだったりもします。

私はただのNBAファンでNBAを外から眺めている人間です。ですからNBAの中にいる選手やコーチ、チームやリーグ関係者の言葉は非常に有難く興味深く感じています。たとえそれが一見無礼であったり、突拍子もないように聞こえても、です。

これからも誤解を恐れずズバズバと本音で語ってくれたら嬉しい限りですけど、非難を受けるのは誰だって嫌ですし、SNSの発展などで炎上もしやすくなっています。
もしかしたら、選手の本音を聞ける機会は徐々に減っていってしまうのかもしれませんね。

NBAファイナル後の記者会見でベンチを離れた理由を聞かれて、「おしっこ行きたかったから」と正直に答えたヤニスには無用の心配でした。

やっぱりヤニスもドンチッチもヨキッチも正直過ぎます。好き。

今回はこの辺で。ではまた。

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