【NBA】ここ20年の各種スタッツリーダーとMVP受賞の相関関係。MVP LadderとMVP Vote Trackerから考えるMVP選考の面白さ。/ヤニス、レブロン、ヨキッチ、ハーデン、ステフィン・カリー、エンビード、ケビン・デュラント、ラス

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【NBA】ここ20年の各種スタッツリーダーとMVP受賞の相関関係。MVP LadderとMVP Vote Trackerから考えるMVP選考の面白さ。

一昨日2023/11/25、またNBA.comのMVP Ladder(MVP順位)が更新されまして。

他候補としてバム・アデバヨ、ディアロン・フォックス、タイリース・マクシー、ドマンタス・サボニス、アンソニー・デイビスが挙げられています(順不同)。

これを機にNBAのMVP Ladder・MVPの仕組etc.について語ってみましょう。

まずMVP Ladderについて。

NBA.comが公開している事で「リーグによる公式見解」と捉える方もいらっしゃいます。ただ実際は、あくまでMichael C. Wright記者一人の見解です。別にリーグのお偉いさん方やMVP委員会的な存在が集まって決めてるわけではありません。

Michael C. Wright記者が毎回NBAファンから「○○が低すぎる」だの「○○が入ってないのはおかしい」だの「ナンセンス」だの文句を言われながら毎週MVP Ladderを決め記事を書いています。記事では「何故そうなったか」を複数のデータと共に説明もしてくれています。順位に同意できるか否かは兎も角、興味深い事も沢山書いてありますので気になる方はこちらリンク先へどうぞ。毎週毎週その苦労は察するに余りあります。ご苦労様です、Michael C. Wrightさん。

感謝のお辞儀をするレブロンと八村。立ち姿の決まってるAD含め好きな写真。
八村には練習中の鼻骨骨折で一週間後に再評価とのニュースが。どうかご自愛を。

で、MVP Ladderは実際のMVP投票に影響があるわけではないです。NBA.comで公開されていますから「リーグの公式見解」と捉える事も可能でしょうけど、Michael C. WrightさんはあくまでMVP投票者100人の内の1人でしかありません。「別のVoter(有権者・投票者)がMVP Ladderを気にして自身の意見を変えた」なんて事も聞いた事がありません。

シーズンMVP(以下単にMVP)はリーグが選んだ100人のVoterによって決められます。Voterメンバーは毎年務める方もいれば、数年おきだったり、1年限りだったりマチマチです(2010シーズン以降はファンもオンライン投票によるVoter1人分だけの投票権を持っています)

昨季2023投票内訳の一部。詳しく見たい方はこちらへ
投票者と投票内容は毎年NBA Communicationsで公開されています。全米大手メディア、世界各国メディア、地方紙メディアから大体選出(日本からも宮地陽子さん、杉浦大介さん、佐々木クリスさんらが選ばれたりしてます)。VoterはそれぞれMVP投票1位~5位の選手を選び、1位の選手は5点、2位は4点、3位は3点、4位は2点、5位は1点を得て、その合算値でMVPが決定されます。

面白いのがVoterには特に守秘義務もないようで、正式発表前に各Voterは投票内容やその理由を独自にバンバン公開しているんです。深い見識だったり優れた洞察だったり興味深いデータも添えながら。

前述のMVP Ladderと同じで大多数のファンはそこまで気にする事は少ないので、投票結果だけを見て「チーム成績or個人スタッツorストーリ性or○○が重視された」云々とMVPの受賞理由や受賞傾向をある程度単純に考えます。それが間違いとまでは言えませんし、決して悪い事でもありません。

ただ、基本的にVoterはプロフェッショナルな方たちばかりなので、そこには100人の十人十色で熟慮された決定プロセスがあります。

「何故そんなことがわかるのか」と言うと、

有志のNBAファンたちが2023 MVP Vote Trackerと題して、事前に公開されたVoterたちの投票内容や公開されたメディアへのリンクをWeb上にまとめてくれているんです。2023 MVP Vote Trackerへのリンク(他アワードもまとめられています。当然未公開のVoterもいますので全員分ではないです)

昨季2023のもの。
@CroesFire Dreamshakemax@gmail.com /u/TexasAlaskaMontana他有志の方には感謝してもしきれません。ありがとうございます。

Voter全員分ではないですし、私も公開されてる内容すべてをチェックしたわけではないので「MVP投票に間違いはない」とか「Voterは100%正しい」みたいな断定的な事は言えませんが、同時に「MVP投票は○○重視だ」とか「MVP投票はおかしい」みたいな単純化した事も言えません。Voterの皆様それぞれ複雑な意見・深い造詣をお持ちでいらっしゃいます。

全米テレビ上では、おどけたり炎上目的にしか思えないような事ばかり言うVoter・アナリストも、別メディアで見ると“映画版ジャイアン”になってたりしてワタクシたまに大笑いしちゃいます。

ESPNでは数々の珍名言を残し面白おかしく道化を演じ、時には非難の的ともなったマックス・ケラマン。The Ringerのポッドキャストのゲスト出演では表情からして違います。動画へのリンク
2023年6月にESPNから離脱。ひとまずお疲れ様でした。沢山笑わせてもらいました。

そういうわけで、MVPに関心がある方には2023 MVP Vote Trackerはオススメです。MVPに限らず、自分の贔屓が選ばれなかったり順位・票数が低いと、どうしてもその結果の正当性を疑いたくなりますが、Voterによる詳細な投票理由etc.を聞いてるうちに割と結果はどうでもよくなったりします。受賞できなかった候補含め、候補者たちの素晴らしさに焦点を当ててる事が殆どで、オフ中試合を見返すモチベーションにもなります。(事前に結果がほぼわかってしまうのでネタバレは覚悟しないといけません)

ついでに“Voter fatigue”についても。

MVP議論で少なからず話題になるのが“Voter fatigue”。直訳すると「有権者の疲労」。ざっくり言うと「同じ人間ばかり選ぶのを避けてしまう心理傾向」です。

NBAのMVP投票に“Voter fatigue”「有権者の疲労」があるかないかで言えば、

ある有権者もいるし、意識的に“Voter fatigue”を排除しようと努めている有権者もいます。何度も言いますがVoterは十人十色です。

“Voter fatigue”に限らず、人間である以上ある程度の認知バイアス(偏見や非合理的な心理傾向)はあります。ただ、それが賞の結果・正当性を損なう程とは私は考えておりません。流石に「こいつは嫌いだから票入れなかった」なんて開き直るVoterはいませんし、皆少なくとも公平でいようとしてますからね。

勿論、詳細な意見を聞いても同意・納得できないVoterもいますし、「この意見は公平性に欠けてるのでは?」と思う事もありますけど、Voterは100人いて、もっと言えば私は世界中のNBAファン80億人の内の1人でしかないので、「そういう色々な観点・意見含めて選ばれた選手たちはそれだけ素晴らしいんだ」と、自身の考えた結果とは違くとも99.9%納得しております。

残りの0.1%はこんな感じ↓。

試合中に中指を立てたニコラ・ブーチェビッチ。「わいせつなジェスチャーをした」として15000ドル(225万円)の罰金。ほんの一瞬の中指1本に225万円とは随分と高くつきました。動画へのリンク

少し話題を変えて、最近のMVPと相関関係の強いスタッツ・指標を探してみましょう。

まずはここ20年のMVP受賞者に一部スタッツ・指標を併記したもの。

ここ20年のPPGリーダー。

ここ20年でPPGリーダーとMVPが一致したのは2023ジョエル・エンビード、2018ジェームズ・ハーデン、2017ラッセル・ウェストブルック、2016ステフィン・カリー、2014ケビン・デュラントの6例。

RPGリーダー

ここ20年でRPGリーダーとMVPが一致したのは2004ケビン・ガーネットのみ。

APGリーダー

一致者なし。

SPGリーダー。

ここ20年でSPGリーダーとMVPが一致したのは2016ステフィン・カリーのみ。

BPGリーダー

一致者なし。

Per Gameスタッツの中でMVPと比較的相関関係が強いのはPPGですね。20年中6例はPPGリーダーで、20年中13例はPPGでTOP5内の選手です。(例外は2022ヨキッチ6位、2021ヨキッチ12位、2015ステフ6位、2011ローズ7位、2007ダーク11位、2006ナッシュ29位、2005ナッシュ42位)

Per Gameスタッツはファンにとって馴染み深く、当然チームや評価にとっても重要なスタッツです。1試合あたりの生産量は大事です。多少効率が悪かろうとも一人の選手が多くの得点を生む事で注意を引きつけて、他選手の効率ひいてはチーム全体の利益となる事は多々あります。

ただ近年は、他に評価基準が増えた事でPer Gameスタッツの評価基準としての価値は相対的に下降気味です(念を押しますが、あくまで“相対的に”です)。20年前なら、20PPGを記録した選手がそのオフにFAとなってミニマム契約を結ぶなんて事はまず起きなかったでしょう。

2023ケリー・ウーブレは20.3PPG他立派なPer Gameスタッツでしたが、FAとなりトレーニングキャンプ直前の2023/9/26にようやくシクサーズと僅か2Mのミニマム契約。そして見返すかのように大活躍。今はオンコートでの個人練習を再開したとの事。チャージングをもらった後やスティールした後に見せるセレブレーション好き。

増えた評価基準の中でMVPと強い相関関係にあるのが、最近めっぽう嫌われがちなPER他総合指標。

ここ20年のPERリーダー

ここ20年で13例がPERリーダー。ここ10年では8例。

ついでに2010~2022MVP受賞者の影響指標LEBRONの順位。

2010以降、14シーズン中10例がLEBRONで1位。
他にも総合指標・影響指標はありますが、イイ感じに見やすい画像が見つからなかったので省略。

最近同じ画像を引用したので見飽きた方もいるでしょうが、所謂“All-in-one metric”総合指標・影響指標は他と比べMVPと強い相関関係にあります。留意点も多いですし、好きになれない方の気持ちもわかりますが、満更捨てたもんでもないです。

しかし、ここで言わねばならないのは

相関関係と因果関係はイコールではない

という事です。

これは論理的思考や分析の基本で、誤解を生みやすい原因でもあります。偉そうに言ってますけど、私もしょっちゅう誤解・混同してます。イコールではないけれど、相関関係が因果関係を表している事も多々あるのが難しくて面白い部分でもあるんです。

“相関関係と因果関係の違い”については、「各国のチョコレート消費量とノーベル賞受賞者数」(※)が有名ですね。

※;世界各国のチョコレート年間消費量とノーベル賞受賞者輩出数には強い相関関係がありますが、チョコレートを沢山消費する事がノーベル賞受賞者多数輩出の原因・根拠にはなりません。
嗜好品であるチョコレートを沢山消費するだけの経済的裕福さは多くの高等教育履修者を生み、それがノーベル賞に繋がったとは言えても、チョコレートの大量消費がノーベル賞受賞の原因ではないです。

つまり「チョコレート消費量とノーベル賞輩出数」に相関関係はありますが因果関係はありません。

いくらチョコレート食べたって頭は良くなりゃしませんし、地球を平和にできないし、優れた文学を残せませんし、ノーベル賞は受賞できません。

「各国のチョコレート消費量とノーベル賞輩出数」は“因果関係”でなく“疑似相関”で、原因は「経済的裕福さ」と見なせます。(勿論原因は他にもあるでしょう)
多くの専門家様が更に詳細にわかりやすく説明してくれてますので、気になる方はググるなりして頂ければ。

MVP選考にしろ勝因敗因分析にしろ、原因・理由を探ろうと思った時、ファンは大抵何らかの理由・傾向・相関関係を見出します。「チーム順位が1位か2位の選手がMVPには多い」「Per Gameスタッツが突出している」とか、今回の記事では「MVP受賞者は総合指標で1位が多い」といった感じです。実際それらとMVPには相関関係があります。ただし、それがMVP受賞の原因・因果関係であるかはまた別の話です。

その因果関係を知る手助けとなるのが前述の2023 MVP Vote Trackerなわけです。結果だけでなく、その中身、各Voterの声に耳を傾けると「このVoterは○○のこういう長所を高く評価したんだな。よし、オフ中は○○のそういう部分に注目して試合を見返してみよう」ともなるわけです。

本記事は要は

2023 MVP Vote Trackerから各Voterの意見に耳を傾ける面白さ」と「相関関係の中から原因・因果関係を見出そうとする楽しさ」

を紹介したかったんです。

「チーム3P%が良い悪い」の原因も、単純に「チームに良い3Pシューターがいるいない、3Pシュートの上手い下手」の他に「良いスクリーンセッター・パサー・ショットクリエイターの存在」「多くの数的優位・オープンスペース・ライブボールターンオーバーを生む強固なディフェンスやスムーズなトランジッション」等々多くの事が関わっていて、過去3Pで猛威を振るったチーム達から意外な相関関係や共通点が見つかって、そこからワクワクしたり妄想したりできます。

バスケの分析、相関関係と因果関係の見極めは非常に難しいです。
現状バスケには万能かつ詳細な“勝利への方程式・セオリー・教科書”なんてものは存在しないので、例えある種の相関関係が見つかっても、それが勝敗と因果関係にあるのか疑似相関なのか偶然なのかの答え合わせは困難です。

しかし、ファンはMVP議論・試合分析その他もろもろ気軽に楽しんでナンボ。そう思いながら当ブログで駄文を綴っております。

記事を読み返してみたら思いの外エラそうで“汗顔の至り”でございますが、皆様のNBAライフの一助になれば幸いです。

“汗顔の至り”なパトリック・ユーイング。(ユーイングは“汗っかき”としても有名でした)

今回はこの辺で。ではまた。

おまけ。

汗っかきなNBA選手たち。

ケビン・ガーネット

シャキール・オニール

マイケル・ジョーダン

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