NBAデータサイトによるNBA2023“オフェンスでの影響度”ランキング。中心選手とロールプレイヤーと“Shot Quality”の関係性。「クオリティの高いショット」とは何ぞや?/リラード、ヨキッチ、ステフィン・カリー、ポール・ジョージ、ハーデン、ゴベア、ドンチッチetc.
“Shot Quality”
直訳すると「シュートの品質」となるでしょうか。
「効率化」が謳われるようになってから特によく聞くようになった言葉です。
恐らくはバスケットボールが誕生した瞬間から“Good Shot”と“Bad Shot”の概念は存在したと思います。
“Bad Shot”と聞いてコレ↓を思い出す方も多いでしょう。
バスケットボールにおける“Good Shot”と“Bad Shot”は非常に曖昧な言葉です。ケースバイケースですし、前述のデイムのブザービータ―もデイムでなければ、ポール・ジョージ以外からも“Bad Shot”と言われてたと思います。
“Good Shot”と“Bad Shot”を隔てる、その曖昧な部分をある程度明確にするのが“Shot Quality”という概念/指標です。
始めに、“Shot Quality”をざっくり言い換えると「シュートの得点期待値」です。つまり“ High Quality Shot”「クオリティの高いシュート」とは「得点期待値の高いシュート」の事になります。
恐らく、「得点期待値の高いシュート」と聞いて、多くの方の頭に浮かぶのはリム近辺でのシュート・オープン3Pかと思います。(本来はフリースローも含まれますが、ややこしくなるのでここでは省きます)
リム近辺でのシュートはリムとの距離が近く比較的簡単。オープン3Pはディフェンダーが近くにおらず、リムとの距離は遠いが1.5倍の得点。
つまり、一般的に「クオリティの高いシュートか否か」というのは、2Pか3Pかを含むリムとの距離・ディフェンダーとの距離で決定されてるようです。シュートの難易度とソレに対するリターンの量ですね。
では、「シュートの難易度」をどうやって決定するか。それをわかりやすく示してくれているのが以下画像。
上記画像は正確には「シュートの難易度」を示すものではなく、データサイトSynergy Sportsが採用している指標Synergy Shot Qualityを説明する画像です。
リムやディフェンダーとの距離だけでなく、ショットクロックの残り時間や、シュートにいたるまでの道筋(プレイタイプ)も考慮されています。
別のデータサイトBBall Indexも独自のShot Quality指標を公開してますが、Glossary(用語説明欄)を見る限り、同じか極めて近い要因を考慮してると思われます。(両サイト、詳細な計算式までは公開してません)
BBall Indexの今季2023Overall Shot Qualityランキング。1000分以上対象。2023/4/7時点。※画像クリックで拡大
昨季2022のもの。
上記ランキングに載っている選手たちは基本的にリム近辺でのシュート・オープン3P多く打つ選手たちです。昨季ランキングではミドルより遠い距離から打たないリムフィニッシャー・ロブキャッチャーが目立ちます。
今季ランキングでは3Pシューター、特にキャッチ&シュート3Pが多い3Pシューターが多いです。
両ランキング・載っている選手で共通なのは「セルフクリエイトにはあまり長けていなくて、シュートスキルが限られている傾向にある」という事です。(ブルース・ブラウンは著しい例外になりますかね)
シュートスキルが限られているので、難しいシュートは打てないし打たない。打たない事で効率の良いショットセレクション、高い Shot Qualityを実現しています。
打てないから打たないのか、打てるけど打たないかは外からでは判断しづらい部分でもありますし、少し敬意に欠けた書き方になってしまって申し訳ないですが、兎に角彼らは己の職務・チームでの役割に忠実な選手と言えるでしょう。
チームでの役割。この文言は“Shot Quality”を語る上で非常に大事なキーワードです。
上記ランキングに載っている選手は所謂「ロールプレイヤー」です(「大したことない」という意味ではなく、オフェンスにおいて「ショットクリエイターや1stオプションが他にいて輝く選手」というような意味です)。
チームのオフェンスにおける中心選手・1stオプション、つまりダブルチームなどタフなディフェンスに遭う事の多い選手は“Shot Quality”は低くなる傾向にあります。
何故なら彼ら中心選手・1stオプションはタフなディフェンスに対しても向かっていかなければならない状況が多い、目の前にディフェンスがいても攻めていってスコアするなり相手ディフェンスの注意を引いてオープンスペースやギャップを作るのが、チームにとって有益な事が多いからです。
恐らくはソレが大抵のコーチが中心選手・1stオプションに求めているチームでの役割だからです。
過去5シーズン2019~2023のO-LEBRON(オフェンスでの影響力を表す影響指標)ランキングに“Shot Quality”を併記したもの。
ほぼ皆Shot Qualityは真っ赤っか(リーグ平均と比べ低いという事です)。にもかかわらず影響指標(※)/O-LEBRONは高い。
※:英語で言うと“Impact Metrics”。超ざっくり言えば、チームへの影響度を比較的重視した総合指標(英語で言うAll in 1 Metrics、Catch All Metrics)。
LEBRON、RAPTOR、EPM、RAPMなど沢山の種類があり、個人スタッツの他コートにいる時といない時のチーム成績の差on/offスタッツなど非常に多くの要因が考慮されます。O-LEBRONはオフェンスのみにフォーカスしたものです。
ボックススコア(個人スタッツ)を重視する総合指標(BPM、TPA、WS、PERなど)を補完できるという面でも重宝されています。
総じてアイテスト(実際に試合を見て評価する事)と併用するのが無難/理想ですが、試合を見たり細かく詳細なスタッツを多く見たり長い時間をかけて調べるヒマがない時にも便利と言えば便利。LEBRONについての詳細はこちら
ついでにDunks And Threesの今季2023の影響指標O-EPMランキング。
FIVe Thirty Eightの今季の2023の影響指標O-RAPTORランキング。
オフェンスにポジティブな影響を与えていながらも“Shot Quality”は低い。と言うよりも、「中心選手が多少強引に打つ事」「中心選手のショットクオリティが多少低い事を前提」とした上でチームの良いオフェンスが成り立っている、と見なすべきかと思います。
つまり
何やら矛盾しているようですが、それが私には面白いです。
また、“Shot Quality”は選手/チームのショットセレクション能力を計るのに便利な概念・指標ですが、その選手が1stオプションなのかロールプレイヤーなのかでも捉え方が大きく変わってくる、奥の深い言葉でもあります。
毎度しつこいですけど
あらゆるスタッツ/指標はコンテキストが大事で、多角的に用いることが求められます。
ですね。
前述のデイムやステフィン・カリー、ケビン・デュラント他タフショットを高効率にバカスカ決める選手を見てると「得点期待値?Shot Quality?なにそれおいしいの?」って脳がバグりもしますし、馬鹿馬鹿しくもなったりしますけど、兎に角面白いです。
イージーショットを打つまでの道筋を作るのが得意なタイプのスコアラーもいますし、そういった選手の特徴を捉えるのにも多少役立つと思います。
ニコラ・ヨキッチとか・・・・・・ヨキッチはタフショットメイカーでもあるのでやっぱ違うか・・・・・
ヤニス・アデトクンボがそうかな・・・・・けどあの鍛え上げられた肉体によるドライブレイアップをイージーショットに分類して良いものか・・・・・
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皆とにかく良い選手。
今回はこの辺で。ではまた。